夕木春央

絞首商会 方舟    

絞首商会 2023年5月2日 (火)
 明治開化から五十年余り過ぎた東京の武家屋敷に建つ、二月前に急逝した村山梶太郎氏の邸宅の庭で、居住している法医学の大家である村山鼓堂博士の屍体が発見された。梶太郎氏の姪で同居している水上淑子婦人は、かつて村山邸に泥棒に入った蓮野を訪ね、犯人探しを依頼する。蓮野は、帝大法科大学を出て銀行に五ヵ月務めて辞めて、一時期泥棒をしていた。残った手紙から、村山梶太郎氏と鼓堂博士には、『絞首商会』という無政府主義者の秘密結社との関係が疑われた。そして、村山家と数十年来の付き合いのある白城、鼓堂博士の妹と結婚した宇津木、数年前から交友のある生島の三人が村山邸に集まって、水上婦人と事件について話し合うのだった。蓮野の面倒を見ている画家の井口が、近所に住んでいることもあって、蓮野の依頼で調査に歩く。
 蓮野の超能力的な語学力、記憶力、推理力。登場人物達が抱える秘密、謎の秘密結社、少女の冒険活劇、そして思いもかけない犯行の動機。複雑だがおもしろかった。メフィスト賞受賞作。

方舟 2025年1月9日 (木)
 僕柊平は、大学時代の友達、隆平と麻衣の夫婦、さやか、花に従兄の翔太郎と、裕哉の別荘に集まっていた。裕哉が山奥に地下建築があるので行こうと言い出し、場所がわからず見つけた頃は夕方になっていた。マンホールの蓋のような入り口を開けて梯子を下りると、通路があって途中に巨大な岩があり、その奥に鉄の扉があった。中に入ると廊下が続いていて20室ほどあり、途中の階段から地下2階にも同じような部屋があり、地下3階は水没していた。発電機を見つけて動かすと照明がついた。機械室に図面があり、水没した地下3階から非常口に通じている。スキューバダイビングの機材があるので、潜って出ることは可能だ。また、モニターがあって、そこには入口と非常口の映像が映っていた。花たちが携帯を使いに外へ出て戻ると、地元の電気工事士だという矢崎と妻の弘子、息子の隼斗を連れてきた。夜、それぞれ部屋に分かれて寝ていると、突然地震が起こった。外へ出ようとすると、扉は巨大な岩に塞がれていた。そして地下水が流入し始めた。地下2階の扉の外に岩を動かすチェーンの機械があって、地下2階に落とせば外へ出られるが、操作した人間は閉じ込められてしまう。モニターを見ると、非常口のほうは土砂に埋もれていて脱出することはできない。そんな時、裕哉が死体で見つかった。地下2階が水没する前に犯人を捜して、その犯人に犠牲になってもらうしかない。翔太郎は捜査と推理を始めるが、第2、第3の殺人が起こる。
 翔太郎は見事に犯人を探し当てるのだが、柊平はその犯人自身から驚愕の真相を告げられる。「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門1位に選ばれたパニック・ミステリー。おもしろかった。