唯川恵

サマー・バレンタイン 肩ごしの恋人 愛に似たもの  

サマー・バレンタイン 2004年7月7日(水)
 この作家も文庫本コーナーにたくさん並んでいて、どれを読んでいいのかわからない。裏表紙のあらすじを読むと、どの小説も同じ。OLの何子は何かのきっかけで誰それと出会い、恋に落ちていく・・・。この作品は、少し毛色が変わっている感じだったので選んでみた。
 志織は短大を出て銀行に勤めて4年目の24歳。仕事も順調、家庭も円満、恋人とは半年前に別れたが何不自由のない生活送っているのだが、時々正体のない不安に襲われる。そんなある日、高校時代の友人の久美子、夏彦とあいついで再会する。皆、親友の貴子をきっかけにネプチューンという喫茶店で出会った仲間だった。貴子と夏彦の間には特別の感情があったようで、貴子が病で急死した後、夏彦にバレンタインのチョコレートを渡すこともできず、卒業して一度も会っていなかった。輝いていたあの頃を懐かしんでいる自分に気づき、同僚に紹介された男性との交際で全てを忘れようとするのだったが・・・。
 男女間のどろどろしたところがなく、登場人物も人生に真剣で、恋愛小説というよりはさわやかな青春小説で良かった。今日7月7日は七夕だが、偶然だがサマー・バレンタイン・デーとも言うそうだ。

肩ごしの恋人 2005年6月17日(金)
 美人で女であることを最大限に利用し、結婚して食べたいものを食べて欲しいものを手に入れるという、男に好かれ女に嫌われるタイプ丸出しのるり子と、幼稚園以来の腐れ縁の親友で男も自分も信じられずクールな萌。るり子の3回目の結婚相手信之は、もともと萌の恋人だった。その披露宴でるり子がただ一人落とせなかったという柿崎と同席し た萌は、その日一緒にホテルへ行ってしまう。一方、新婚旅行でハワイへ行ったるり子のほうは、結婚したとたんにもう飽きてしまっている。
 会社でアダルト部門の責任者に抜擢された萌は会社を辞めてしまう。会社にアルバイトで来ていた家出少年崇をやむなく部屋に置いておくと、るり子は信之の浮気で萌のアパートに押しかけ、3人暮らしが始まる。そして、柿崎の友人でおかまバーのマスター文ちゃん、ゲイ誌専門書店のオーナーで美男子のリョウなどが絡んで、物語は進んでいく。
 るり子というのは傍から見たら見たら典型的なバカ女なのだが、そのセリフが徹底していて、読んでいるとそうだその通りだと思えてくるから不思議だ。例えばこんな感じ。「不幸になることを考えるのは現実で、幸せになることを考えるのは幻想なの?」「私は自分が幸せになれないなんてどうしても思えないの。だって私、いつだって幸せになるために一生懸命だもの。人生を投げたりしないもの。頑張ってるもの。そんな私が幸せになれないわけがないじゃない」久し振りに痛快でおもしろい小説を読んだという感じだ。これは、恋愛小説ではないね。

愛に似たもの 2009年11月11日(水)
 「真珠の雫」:チエは生まれた時から、男を腑抜けにしいい思いをすることに頭も身体もなじんでいた。クラブの経営者の愛人とママの座を手に入れ、父の違う姉の直美に経理を手伝ってもらうことにする。
 「つまずく」:離婚してフラワーアレンジメントの仕事で成功した公子にとって、友人たちが入れ込むペットや甥っ子にあたる存在が、花材を仕入れる花屋に勤める稔だった。その稔に恋人ができる。
 「ロールモデル」:藍子は美人で聡明で、理美はなんでも藍子を参考にし、言われるままに決めてきた。その藍子の夫が急死し、落ち込む藍子に理美が相談される側になった。
 「選択」:いい高校、いい大学を出て一流企業に就職してエリートと結婚した広子だったが、今は家事とパートと姑の介護に明け暮れている。夫と結婚する前つき合っていた朋弥のことが気になりだす。
 「教訓」:十人いれば4番目か五番目くらいの平凡な女、結婚なんて時期が来れば自然にするものと思っていた美郷だが、学生時代の五人のグループで最後に一人になってしまった。そんな美郷に出入りの業者の男が声をかけてきた。これまでの失敗を教訓にデートに出かけるのだが…。
 「約束」:編集プロダクションで働いている幾子は、表紙のイラストを依頼している葉月と友達づきあいしているが、幾子が週末一緒に過ごしているのは、癌で余命いくらもない葉月の夫だった。
 「ライムがしみる」:捨てられた男と出会ったバーへ久し振りに入った美樹は、ママが捨てられたのも同じ男だったと知る。美樹は今つき合っている男がいて、ママも新しい恋人ができたという。
 「帰郷」:入院した母を見舞うため、故郷を出て十三年ぶりに帰郷した千沙。父に虐げられた母のようになりたくなくて家を飛び出し、過去を捨てるためダイエットし整形して、セミナー会社の会長の愛人に収まっていた。
 愛を求めてもがく女たちを描く短編集。「真珠の雫」、「選択」、「ライムがしみる」は、ある程度予想できるが、落ちがおもしろかった。「約束」はちょっとホラーっぽい。上昇志向が強すぎたり、人と比較し過ぎたり、思い入れが強すぎたり、といった過剰さが<つまずき>のもとになっているわけだが、ちょっと笑える。柴田錬三郎賞受賞作。