米澤穂信

氷菓 さよなら妖精 ボトルネック 折れた竜骨
満願      

氷菓 2007年12月30日(日)
 「省エネ」をモットーとする神山高校1年制折木奉太郎は、海外旅行中の姉からの手紙の指図で今や部員ゼロの古典部へ入部することになる。放課後、部室となっている地学講義室の鍵を開けて中に入ると、既に千反田えるという女子がいた。千反田は鍵はかかっていなかったと言う。では誰が閉じ込めたのだろう。奉太郎は見事に謎を解いてみせる。奉太郎、千反田、そして奉太郎の親友福部里志、里志に求愛している伊原摩耶花の4人で古典部活動をすることになり、文化祭のための文集作りのためバックナンバーを探す。見つかった文集「氷菓」には謎の文章があり、それは千反田の行方不明中の伯父関谷純が幼い千反田に語ったという言葉に関係していそうだった。千反田は、その言葉を思い出せないのだった。三十三年前の事件とは一体何だったのか。
 高校生活のちょっとした不思議な出来事を、灰色の奉太郎が不承不承ながら謎解きしてみせるという、ユーモラスな青春ミステリー。まあまあおもしろかった。

さよなら妖精 2009年12月31日(木)
 おれ、藤柴市の高校生守屋路行と大刀洗万智は、雨宿りしている白人の少女を見かけた。ユーゴスラビアから父と一緒に来て、藤柴市で世話になることになっていた人が亡くなっていて、途方に暮れているということだった。マーヤと名乗った少女は、政治家になることが目標で、父について各国を訪れているのだという。同学年の白河いずるの旅館で預かってくれることになり、マーヤは旅館の手伝いをしながら二ヶ月間過ごすことになった。ユーゴスラビアでは独立運動をめぐって内乱が勃発し、マーヤも帰る日が近づく。おれは一緒にユーゴスラビアへ行きたいという思いに駆られるようになるが、拒絶されてしまう。その後マーヤからは連絡もなく、おれと白河はマーヤが帰った国、6つの共和国のどこかをつきとめようとする。
 小さな謎解きはいくつかあるが、ミステリーというほどでもないかもしれない。なにごとにも打ち込めない守屋が、目標を持って好奇心旺盛に生きて、動乱の地に帰っていくマーヤに惹かれていく学園小説。ただ、守屋君というのは、こいつはこんなやつと決めつけた見方しかできないので、結局最後までなにもわかっていないのだった。

ボトルネック 2010年3月10日(木)
 二年前に事故死した諏訪ノゾミを弔うため東尋坊を訪れた嵯峨野リョウに、寝たきりだった兄が死んだと母から電話があり、帰ろうとした時(おいで、嵯峨野くん)という声が聞こえ、その瞬間平衡感覚が狂った。気がつくと金沢市内の公園のベンチに横たわっていて、家に帰ると見知らぬ若い女がいて、嵯峨野サキというこの家の娘だという。どうやらリョウはパラレルワールドにトリップしたらしい。そして、サキの世界では不仲な両親の仲は良く、兄も生きていて、死んだうどん屋の主人は生きていてしつぶれたアクセサリーショップはまだ残っていた。そして諏訪ノゾミも生きていた。明るくて前向きなサキに対して、自分を閉ざしているリョウ。
 興味深く読んだが、いまいち煮え切らない印象で、結末も暗過ぎる。この作家の主人公の男子高校生は皆同じ印象。老人のようだ。

折れた竜骨 2013年9月21日(土)
 一一九〇年、ブリテン島の東、北海に浮かぶソロン諸島。一六歳のアミーナの父、ローレント・エイルウィンが領主として治めていた。アミーナは港と街のあるソロン島で、領主に伝えることがあるという聖アンブロジウス病院兄弟団の騎士ファルクとその従士ニコラに出会い、館のある小ソロン島へ連れて行く。一方、ローレントは戦いに備えて傭兵を雇おうとしていた。「呪われたデーン人」が襲来するのだという。いずれも一癖ありそうな傭兵との面会を済ませた後、ファルクはローレントに暗殺騎士が命を狙っていると告げる。そしてその夜、傭兵やファルク達がソロン島へ戻った後、ローレントが剣で胸を刺されて死んだ。
 中世の西洋、魔術やゾンビが登場して、ミステリーが成り立つのかと思ったが、「呪われたデーン人」(ゾンビ)との戦いは別として、ミステリーとしてはローレント殺人の犯人と、館の塔にとらわれた「呪われたデーン人」の消失に焦点を当てているので、本格ミステリーと言えるだろう。ただ、解決は反則パターンではあるが。日本推理作家協会賞受賞作。

満願 2017年10月29日( 日)
 「夜警」は横山秀夫風の警察小説、主人公がエリートではないというところはちがうが。「死人宿」は自殺者がよく出る旅館で見つかった遺書の書いた人探しという謎解きだが、推理というよりは肉体勝負。「柘榴」は容姿に恵まれながら男運の悪い母娘の醜い悲喜劇。「万灯」は仕事のために殺人を犯した男に降りかかる意外な復讐。「関守」は伊豆の峠道で事故が多発する都市伝説の恐ろしい真相。「満願」は学生時代の恩人の裁判に関わった弁護士が抱く疑問。
 山本周五郎賞受賞作にして、「このミステリーがすごい!」、「週刊文春ミステリーベスト10」、「ミステリが読みたい」1位だそうだ。どこかで読んだような話ばかりで独創性は感じられないし、人の心の醜さしか感じられなくて、どこがおもしろいのかまったくわからない。