横山秀夫

陰の季節 動機    

陰の季節 2006年2月6日(月)
 「陰の季節」:2年の約束で天下りポストについた元刑事部長が、いすわるつもりだという。D県警警務部警務課で人事を担当している二渡が解決を命じられる。
 「地の声」:Q警察署の生活安全課長がパブのママと密会しているという告発が届く。内部告発の可能性を疑って、警務部監察課の新堂はQ警察署にいる元部下を使って探り始める。
 「黒い線」:似顔絵が元で犯人逮捕に至るというお手柄を上げた鑑識班の婦警が出勤せず、行方不明になってしまった。警務課で府警担当の七尾が行方を捜す。
 「鞄」:県議会の保守系議員が警察に関係した爆弾質問を用意しているという噂が流れる。警務部秘書課の柘植がその内容を探る。
 最初の作品だけは事件と関係しているが、他の三作はいずれも警察内部の出世欲や体面が原因のトラブルだ。二渡警視が活躍するのは最初の作品だけだが、他の作品でも陰で影響力を及ぼしている。それにしても、警察というところはそれほど警視、部長、署長といった役職につくことを目指している人ばかりなのだろうかと違和感を覚えた。
 しかし、警察内部を扱ったリアルな作風であまり好きではないので読んでいなかったのだが、テレビドラマで見て知っていた割には、おもしろかった。松本清張賞受賞作。

動機 2007年3月27日( 火)
 「動機」:U署で一括保管していて三十人分の警察手帳が盗まれた。警察内部の調査は監察官が行うが、その一括保管を起案したJ県警本部警務課の貝瀬警視もU署へ出向いて調査を開始する。期間は記者発表のある明後日までだった。そして、タイムリミット寸前、貝瀬は意外な犯人とその動機を思いつく。
 「逆転の夏」:殺人を犯して刑期を終え、保護司の世話で働いている山本のところへ、殺人依頼の電話がかかってきた。銀行に前金が振り込まれ、妻の静枝を取り戻したい気持ちから山本はその金を静枝へ送る。しかし、誰が山本の過去や電話番号、口座番号を調べたのか?そして、殺人決行の日が迫ってくる。
 「ネタ元」:県民新聞の社会部記者水島真知子は、自分が書いた記事のせいで不買運動が起こり、もとから社会部での女性差別の空気もあって、追い込まれていた。そんな時、ライバル全国紙から引き抜きの話がある。泥舟から解放される喜びを覚える水島だが、引き抜きの理由を考え、一人のネタ元のことが気になりだす。
 「密室の人」:裁判官安斎は、公判中居眠りして寝言で妻の名を呼んでしまった。取材していた新聞記者から面会依頼があり、弁護士からは担当変更の上申書が出され、所長からは辞職を命じられる。妻が服用している睡眠剤が、安斎の整腸剤の形に似ていることに気がつく。
 「陰の季節」は前作警察ものだったが、この作品集は警察、加害者、新聞記者、弁護士と多様だ。登場人物の心理面に重点が置かれていて、端正な文章といい、どこか松本清張的だ。「動機」の動機はさらに意外なものだったし、「逆転の夏」の逆転と登場人物たちの心境の変化も印象的だ。「密室の人」のラストも気になる。日本推理作家協会賞受賞作。