山本一力

あかね空      

あかね空 2005年6月13日(月)
 京の平野屋で豆腐作りの修業を積んだ永吉は、豆腐屋で独立するため江戸へやってくる。雑穀問屋広弐屋の紹介で深川蛤町の裏店を訪ねると、最初に会って案内してもらったのが桶職人源治の娘おふみだった。源治の手助けも会って無事豆腐屋を開業するが、京の絹ごし豆腐は江戸の硬い木綿豆腐になれた口に合わなくて売れない。しかし、明るくて働き者のおふみや善人ばかりの周囲の人たちのおかげでお寺や料亭の得意先を徐々に確保して、結婚して子供ができて、ととんとん拍子にストーリーが進行していく。それもそのはずで、子供たち、栄太郎、悟郎、おきみと親子二代にわたる物語なのだ。と言っても、親の代、子の代ということではなくて、あくまでも親子5人の豆腐屋稼業、愛憎、そして気持ちのずれから生じる対立を描いたものだ。そして、一つの出来事をそれぞれの立場から何度も語りなおして、それぞれの気持ちを表している。
 商売敵の平田屋以外は全員が善意の持ち主で、大団円も理由が不明で甘い感じもするが、それでもよくできた人情話だと思う。最初の3行は洒落ていて味わいがある。時代小説や歴史小説は基本的に興味がないので読まないのだが、直木賞受賞作なので読んでみた。