山口雅也

キッド・ピストルズの冒涜 キッド・ピストルズの妄想 日本殺人事件
續・日本殺人事件    

キッド・ピストルズの冒涜 ・キッド・ピストルズの妄想 2003年4月16日(水)
 パラレルワールドの英国が舞台。そこでは、私立探偵が腐敗した警察を指揮して事件捜査に当たっている。その腐敗した警察の刑事がパンク野郎のキッド・ピストルズ。名探偵ホームズやポワロの子孫を名乗る探偵の助手をしながら、しばしば探偵を出し抜いてしまう。キッド・ピストルズの推理方法は、わずかな手がかりや矛盾から犯人を想定し、その狂人の論理(価値観や思考)をなぞって、事件の真相を推測していくというもの。全ての事件でマザー・グースがモチーフになっているが、レゲエからイギリス庭園まで、かなり博学じゃないと、これだけの作品書けないなという感じ。ネタバレになるから書けないが、単純な殺人事件ではないし、ロンドンのパンク野郎といっても日本的にウェットなのだ。ミステリーは、ゴールデンウィークまでお預け。

日本殺人事件 2005年11月7日(月)
 たった6ヶ月過ごしただけの義理の母カズミへの思慕から、サムは日本について勉強し、30代半ばにしてカズミの兄バショーを頼って日本へ渡航し、バショーが住むサガミ県ヨコウラ半島のカンノン・シティー(横須賀でしょうね)を訪れる。リキシャに乗って日本の旅館ハットリ屋に逗留することになる。部屋付きのネエサンはエクボさんというが、実は女子大生で、旅館は母が切り盛りしていて時々バイトで勤めていて、父は警察署長だった。
 この日本には実際にサムライがいて、ハイクやゼンやサドーがファッションになっていてという、「外人」が見たような異世界なのだが、そこで異世界の日本にふさわしい、ハラキリとかサドーとかクルワにまつわる殺人事件に遭遇し、謎を解決していく。といったわけで、「続」があれば確かに読みたくなる。エクボさんも魅力的だし。日本推理作家協会賞受賞作。

續・日本殺人事件 2006年1月10日(火)
 相模県観音市でアメリカ人の私立探偵、トウキョー・サムが活躍する異次元ミステリーの続編。
 「巨人の国のガリヴァー」は、大相撲とは別に神事相撲と見世相撲という世界があって、その対立の中で起こる摩訶不思議な事件。お盆にお墓で宴会に盆踊り、企業の繁栄のために雇われる福助といったおまけまでつく。
 「実在の船」では、仕事がなくてノイローゼ気味のサムが禅の公案の罠にはまってしまう。
 現代の日本と西洋人が想像するような伝統とが同居する不思議な世界のカリカチュアはおもしろいのだが、今回はエクボさんもあまり登場しないので、おもしろさは半分だった。ミステリー的には、「巨人の国のガリヴァー」のほうは、力士の死体が3つも出てきたり、神社の鳥居に吊るされたりという謎解きはなるほどという感じだが、「実在の船」はシリーズに幕を引くためだけの作品としか思えない。