山田正紀 |
ミステリ・オペラ |
ミステリ・オペラ 2011年8月26日 (金) |
平成元年東京、萩原桐子の夫・祐介は勤務先の出版社の屋上から飛びおりて死んだ。部屋には遺書らしい便箋と数字の羅列が残されていた。目撃者のOLは、祐介が空中にしばらく浮かんでいたと証言した。そして、検閲図書館の関係者と名乗る人物から、祖父が残した古文書のなかの善知鳥良一のという人物の原稿を譲ってほしいという電話がある。探してみると、「宿命城殺人事件」と題されたものが二種類あった。一つは現代仮名遣いで途中で終わっていて、もう一つは旧仮名遣いの長い手記だった。昭和十三年の満州国、関東軍は建国神廟を創設し、祭神に天照大神を迎え、オペラ「魔笛」を奉納しようとしていた。そのため、国務院弘報処の早見風弘、舞台監督の古海浩三、推理作家の小城魚太郎、プリマ・ドンナの白香花、舞台進行の善知鳥良一が集められた。手記の中には、南京事件をはじめ、貨車消失、密室殺人など、不可思議な出来事が描かれていた。桐子は、平成元年と昭和十三年の“平行世界”へ入りこんでいく。 文庫本で1000ページを超える大作。 密室殺人、暗号、見立て殺人といった本格ミステリー仕立てのほか、平行世界とか空中浮遊、貨車消失といったSFじみた設定も出てくる過去と現在にまたがる複雑な事件に、満州の事件にもかかわった「検閲図書館」黙忌一郎が挑む。日本推理作家協会賞・本格ミステリ大賞受賞作。 |