山田詠美

ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー 蝶々の纏足・風葬の教室

ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー 2006年3月29日(水)
 読み始めて捨てようかと思ったが、直木賞受賞作だしもったいないので最後まで読んだ。日本で暮らしている日本人が、仮にアメリカの黒人のことを隅から隅まで知ってい たとしても、アメリカを舞台に黒人が主人公の小説を書く必然性がどこにあるのだろうか。逆の場合だったら、噴飯ものだと思う。
 ソウルの名曲をタイトルにした、黒人の男女の恋愛を描いた短編集。読んでいて登場人物が黒人だとわかるような書かれ方はしていないし、逆にこれを読んでいると、黒人は男(あるいは女)をあさることしか考えていないように思ってしまう。
 中で、醜くて孤立していた少年が高校の卒業パーティで、いつの間にか普通の立派な大人になっていたことに気づく「PRECIOUS PRECIOUS」、クールを装おうとするが一人の女の前ではなりきれないDJを描いた「GROOVE TONIGHT」、急死した親友の恋人を心配するうち、愛していることに気づく「FEEL THE FIRE」などは感じが良かった。

蝶々の纏足・風葬の教室 2007年4月29日( 日)
 「蝶々の纏足」:引っ越した家の隣りの子がえり子だった。私は、美しく大人のような言いまわしをするえり子の後をいつも付いて歩くようになった。しかし、小学校に通い始める頃から、私はえり子を次第に醒めた目で見るようになった。えり子は私の側にいつの間にか近寄ってきて、「親友」と呼んで離そうとしなかった。いつも私を後ろに従えていたえり子に先まわりするため、私は麦生の体を手に入れようとする。
 「風葬の教室」:地方都市の小学校へ転校した私は、数日でクラスの友だちに受け入れられるが、女子に人気のある体育教師に気に入られたことから、いじめられるようになる。救いは他の男の子たちとは違う、アッコの存在だった。平林たい子文学賞受賞作。
 「蝶々の纏足」は高校生、「風葬の教室」は小学生だが、二人の少女は、ともに早くから孤独を知り、子供の世界を超越した心の世界に住み、同じように子供の輪から離れている男の子を見つけて愛情を抱く。どちらも少女の繊細の心が描かれていて、共感を持てた。特に「蝶々の纏足」の二人の少女の関係 には、苦く切ないものがある。山田詠美の性愛の世界の原点のようなものが見えた気もする。