薬丸岳

天使のナイフ Aではない君と    

天使のナイフ 2008年9月4日(金)
 桧山貴志の妻祥子は、生まれたばかりの愛美を残して、小遣い稼ぎに空き巣に入った三人の中学生に刺し殺された。祥子は、桧山がフランチャイズの店長をしているカフェで、定時制高校へ通って看護師になるための勉強をしながら働いていた。そして、その間貯金した五百万の金が事件の1ヶ月ほど前に引き出されていた。四年後、犯人の一人が桧山の通勤路で殺された。アリバイのない桧山は疑われることになった。桧山は、殺された少年の施設や残る二人の少年を訪ねる。二人の少年のうち一人は、桧山がいた駅のホームのすぐ近くから何者かに突き落とされ、無事で済んだものの、桧山と会う約束をした一人はまた殺されてしまう。桧山のもとには、人権擁護派の弁護士相沢や少年犯罪を扱うライターの貫井も接触してくる。桧山は、所沢の少年たちが、小遣い稼ぎのためなぜわざわざ北浦和まで出てきたのかという疑問にたどり着く。そして、祥子の過去にも何か秘密があることがわかってくる。
 前半は謎を含ませておいて、後半は一気に進展していく。ラストは二転三転し、特に最後は驚きだ。ただ、「手の染み」という言葉は確かにあるが、読者が推理する手がかりはほとんどなく、2時間ドラマを見るように、桧山が少しずつ真相に迫っていくのをただ眺めるだけだ。宮部みゆきとか、桐野夏生とか、最近こんなタッチのミステリーが多い。江戸川乱歩賞受賞作。

Aではない君と 2017年11月4日(土)
 吉永が勤める会社に警察が訪ねてきて、中学生の息子・翼のクラスメートが殺されたという。そして、翼が犯人として逮捕された。妻の純子とは離婚して、翼は純子が育てていた。翼とは時々会っていたが、最近は遠ざけるようになり、事件のあった東村山に引っ越したことも、可愛がっていたペットが亡くなったことも知らなかった。そして、事件の直前にあった翼からの電話にも出ていなかった。翼は、取り調べに何も答えないし、吉永にも弁護士にも何も語ろうとしなかった。弁護士によれば、家庭裁判所の少年審判で処分が決まるが、場合によっては検察に逆送致されて一般の裁判で審判を受けることもあるという。
 少年犯罪の加害者に焦点をあてた作品。亡くなった者は二度と戻らないが、加害者は加害者として生きていかなければならない。雑誌連載は第二章までだったが、単行本化の際第三章が加えられ、さらにつらい展開が描かれている。吉川英治文学新人賞受賞作。