矢樹純

がらくた少女と人喰い煙突 夫の骨    

がらくた少女と人喰い煙突 2021年8月10日(火)
 女子中学生・陶子は《宝物》(がらくた)集めが趣味で、部屋の中はごみ屋敷状態。《強迫性貯蔵性》という病気だそうで、桜木という心理カウンセラーが訪れて、治療のために、狗島という島を訪れることになった。狗島には《赤痣病》の患者を隔離していた療養施設《愛心園》があり、長年園長を務めた友埜恵三郎の後を受けて、友埜の義娘で、陶子の従姉である仁菜が園長をしていた。島はかつての患者と施設の職員しかいず、三日に一度定期船が荷物を運ぶだけの孤島 だ。が、着いたその日に元園長の友埜の首なし死体が、かつての火葬場跡の煙突の下で見つかった。台風の影響で電話もつながらなくなっていた…。
 《赤痣病》という名前になっているが、ライ病施設を背景にして作られた、いわゆる孤島ミステリーだが、 探偵役の桜木の正体、陶子の問題とその原因、人間関係など、少しひねってあって、おもしろかった。

夫の骨 2024年8月3日(土)
 家族をめぐるイヤミスが叙述トリックのどんでん返しで人情ミステリーに変わる短編集。 「夫の骨」では、夫の遺品から乳児の骨が見つかったことから、その前に亡くなった夫の義母との関係を疑う。「朽ちない花」では、働いていたレストランの元恋人のオーナーと同居している姉が付き合いだすが、倒産して二人は行方不明になる。「柔らかな背」では、甥から事故を起こした補償の金を要求されるが、同居している娘には話せず、一人で解決しようとする。「ひずんだ鏡」では、子供の時から妹に嫉妬し、摂食障害になり、時々訪ねてくる妹が金を持ち出しているのではと疑うようになる。「絵馬の赦し」では、娘の中学受験中心の生活を送る中、夫の幼馴染から「妊娠した」と電話があり、会って話したいと言うが、娘のために会いたくない。「虚ろの檻」では、夫の暴力から逃れて別荘の管理人をしていると、隣家に土佐犬が持ち込まれて一晩中吠えていて、殺そうと決意する。「鼠の家」では、父が亡くなり母が異常な行動をしているということで実家へ行く。妹は高校の時家族と争って家を出ていた。「ダムの底」では、娘が突然ダムへ連れて行ってと言いだす。妻が出て行き、それ以来娘と二人暮らしだったが、ある時から娘は引きこもりになり、最近定時制に通って卒業し、アルバイトで働くようになっていた。「かけがいのないあなた」では、FX取引で消費者金融に借金を抱えている夫を殺すしかないと思い、結婚前付き合っていた男と連絡を取る。
 「夫の骨」は日本推理作家協会賞短編部門受賞作。みすてりーとしては「かけがいのないあなた」が複雑でおもしろい。