椰月美智子

しずかな日々      

しずかな日々 2010年9月27日(月)
 父を早くに亡くして母と二人でひっそり暮らしてきた光輝は、勉強も運動もできない目立たない男の子だった。五年生になって初めて押野という友達ができて、ニックネームで呼ばれたり、放課後空き地で野球をするようになった。クラスの飼育委員にも立候補して、母と二人だけの世界から景色は広がっていった。夏休み前、母が仕事をやめて店を出すことになり、転校しなければならなくなるが、光輝を見守っている椎野先生の配慮で、光輝は近くに住んでいる祖父の家で暮らすことになる。偶然にも祖父と押野は知り合いで、そのうち野球の友達も祖父の家に来るようになった。
 味噌汁や漬物やご飯は絶品の味、口数は少ないが思いのこもった言葉。なかなか魅力的なおじいさんだ。この作品の魅力は、庭や縁側のある家とか、ノスタルジックな部分でもあるかもしれない。ただ、祖父との「しずかな日々」というよりは、友達と過ごした夏休みという印象のほうが強いような気がする。「しずかな日々」とは、実はその後の主人公の人生のことなのだろう。野間児童文芸賞、坪田譲治文学賞受賞作。
 「いろんなことがあって、これからもあるだろうけど、どんなことも静かに受け入れていくのがぼくの人生で日常だ。…人生は劇的ではない。ぼくはこれからも生きていく。」