若竹七海

ぼくのミステリな日常 閉ざされた夏 暗い越流  

ぼくのミステリな日常 2004年1月12日(月)
 OL「若竹七海」は、突然社内報の編集長に任命され、社内の要望で毎月短編小説の掲載することになる。作家に依頼する予算もないので、学生時代の文芸サークルの先輩に頼みこむと、匿名ならという条件で書いてくれる人間を仲介され、毎月謎の人物からの作品を受け取ることになる。4月から3月まで、作者の「ぼく」が身近で見聞きした、花見とかクリスマスとかバレンタインとか月に関係するミステリーな物語が掲載されるが、こんな出来事があったけどどういうわけなんだろうという趣向は北村薫とか加納朋子のような感じ。 加納朋子の「ななつのこ」に近いかな。
 トリック的に一番おもしろかったのは、「内気なクリスマス・ケーキ」。綾辻行人の「迷路館の殺人」で使われた一発芸だ。「バレンタイン・バレンタイン」や「吉凶春神籤」も、罪がないので楽しく読めた。1年間の掲載が終了して、初めて作者に会うのだが、 その後全体を貫く謎も明らかになる。

閉ざされた夏 2008年3月8日(土)
 才蔵は、昭和初期の文学者高岩青十の業績を紹介する記念館の学芸員。担当課長の三田さん、三十代の鶴子さん、一つ年上の知佳、知佳と同級生だったアルバイトの夕貴、みな途方もない楽天家だ。その記念館でいたずらのような放火未遂事件が続いて起こり、不倫の噂がささやかれ、忙しく準備してきた特別展の開催中、北海道へ旅行しているはずの鶴子が死体で見つかる。才蔵と一緒に住んでいる妹の楓はミステリ作家で、才蔵と夕食をとりながら話を聞いて推理する。
 謎を解く鍵は記念館の資料とか、青十やその姉の涼子をめぐる人間関係にあるのだが、現在と過去が錯綜して、一つの事件に多くの人間がかかわることになって、そのため最後まで一転二転する。おもしろいといえばおもしろいが、ズッコケな導入部からすると後味はあまり良くないし、果たしてこれで終わりなんだろうか思わせるところが、最初と最後の色の描写のところから感じられるのだが、どうなんだろう。

暗い越流 2017年1月13日(金)
 「蠅男」:女探偵葉村晶は、相続した祖父の家の売却が決まったので、母の遺骨を取ってくるよう依頼される。その前に頼んだという男とは連絡がつかなくなっていた。その家を訪れて中を探していると、蠅男に見える人間に階段から突き落とされた。そこには連絡がつかなくなったという男の死体があった。
 「暗い越流」:犯罪関係のライターである私は、弁護士に死刑囚あてに届いたファンレターの差出人の素性を探るよう依頼される。他の件で取材した男が話した行方知らずになった恋人の名前は、ファンレターの差出人と同じだった。聴いた住所を訪ねると、ファンレターの差出人の家は死刑囚の家と隣同士だった。
 「幸せの家」:人気ライフスタイル雑誌を一人で切り盛りしている女編集長が音信不通になった。仕事の依頼先に電話すると、編集長は人の弱みを見つけて脅迫して、ただで仕事をさせていたらしい。協力しているライターと、次の脅迫相手らしいリストを取材を兼ねて訪ねる。
 「狂酔」:俺は子供の時誘拐されたことがある。父からは何も話すなと言われていたが、その時自分を閉じ込めた女を訪ねると、その子は父は自分とそっくりだった。女は育ったキリスト教の施設を追い出されたが、いつも戻りたいと言っていたそうだ。
 「道楽者の金庫」:女探偵の私は、相続した金庫の番号が記されたこけしを別荘から探してくるよう依頼される。別荘でまず古書を箱詰めし、こけし探しを始めると突然こけしの棚が崩れ、気を失ってしまう。
 いずれもブラックミステリー。表題作「暗い越流」は、日本推理作家協会賞短編部門受賞作。