歌野晶午 |
動く家の殺人 | ブードゥー・チャイルド | 葉桜の季節に君を想うということ | 世界の終り、あるいは始まり |
密室殺人ゲーム2.0 | 春から夏、やがて冬 |
動く家の殺人 2003年2月16日(日) |
風来坊探偵・信濃譲二シリーズの第3作。いきなり「信濃譲二は殺された」というプロローグで始まる。学生・市之瀬徹が事件に巻き込まれて、信濃譲二が呼び出されて事件を解決するというのが前2作だが、今回は信濃譲二の一人称で語られ、信濃譲二自身が事件に巻き込まれていく。この辺の書き分けが、ポイント。殺人事件が起こる芝居の舞台で現実の殺人が起き、その外側でもう一つの芝居が進行していくというところがおもしろいが、結末はすっきりしないし、寂しい。 |
ブードゥー・チャイルド 2004年10月18日(月) |
主人公の少年は前生の記憶を持っていて、それをホームページで紹介して謎を解く機会を待っている。チャーリーという黒人の子供で、黒い衣装の男に腹を割かれて死んだ。自分を襲ったのはバロン・サムデイという悪魔で、自分の血で床に悪魔と十字架の「悪魔の紋章」を描いていた、というもの。 少年の母は少年の誕生の2年後亡くなっていて、母は父の再婚相手でその子は同い年の娘。その父に妙な電話がかかってくるようになったある日、留守の間に母が惨殺された。顔に塩をのせてあり、Charlieという名前と悪魔の紋章の書かれたメモ用紙が落ちていた。父は何か隠しているようで、同い年の姉と一緒に、少年は自分の前生の謎から事件を探ろうとする。 ありえない前生の記憶と現実の事件がきっちりつながる結末はすごくおもしろいし、裏表紙に「天才少年探偵」という言葉があるが、誰のこと?とこちらも興味津々である。 |
葉桜の季節に君を想うということ 2007年8月16日(木) |
成瀬将虎は、白金台のフィットネスクラブで体を鍛え、警備の仕事やパソコンの講師をしている、自称「何でもやってやろう屋」。妹の綾乃との二人暮らしだ。ある日、そのフィットネスクラブで高校の後輩のキヨシから、体調を崩して休んでいる同じ会員の久高愛子の見舞いに付き合わされる。愛子によれば、おじいさん隆一郎が蓬莱倶楽部というSF商法の団体に大金をつぎ込んだあげく、保険金をかけられて殺されたという。高校を出て2年ほど探偵事務所で働いたことのある成瀬は、蓬莱倶楽部の内偵を引き受ける。そして同じ頃、成瀬は地下鉄で自殺しようとした麻宮さくらを助け、次第に心引かれていく。 蓬莱倶楽部の無料体験会に侵入し、事務所を捜し当てて掃除夫になりすまして秘密を探ったりと、ハードボイルド的な展開。間に、探偵時代に経験した猟奇的な殺人事件と、飲み仲間安さんの娘探しと、蓬莱倶楽部に巻き込まれた女、古屋節子のエピソードが挿入される。 あとは、証拠をつかむだけかと思いながら読んでいたら、最後にあっと驚くトリックがあった。確かに、かすかな矛盾や違和感を感じながら読んでいた。六畳一間の「わが城、ひかり荘」と妹との二人暮らしとか、疑われず無料体験会場に入ったり掃除夫になりすましたりするところとか。語り口とかトリックとか、どこか伊坂幸太郎を思わせる、軽いミステリー。映画化は絶対無理だろう。 「花が散った桜は世間からお払い箱なんだよ。せいぜい、葉っぱが若い五月くらいまでかな、見てもらえるのは。だがそのあとも桜は生きている。今も濃い緑の葉を茂らせている。そして、あともう少しすると紅葉だ。」「知らないことはたくさんある。知らないことの中には、自分の適性や趣味に合ったことが隠れているかもしれない。それを知らないまま死んでいっていいのか?」 |
世界の終り、あるいは始まり 2009年11月8日(日) |
近所の小学生が誘拐されて遺体で発見された。その後近隣で同様の事件が連続して起こった。水曜日、職場のメールに脅迫状が届き、短銃で殺害されるという手口が共通していた。そんなある日、富樫修は息子雄介の部屋で被害者の父母の名刺を見つける。こっそり調べると、雄介は事件が起こった水曜日に行っているはずの塾を無断でやめていた。いろんな事実が息子への疑惑を深めていき、ついに机の引き出しの二重底から銃が見つかった。そして、事態は急転直下する。 と言っても、そこから先は超ミステリーの世界。どのケースも今度こそ本物かなと思ってしまうようなリアリティがあって、振り返ると笑えた。加害者の家族というのも悲惨なものだと思う。村上春樹風のタイトルで、ミステリーのようではあるが、あるいはミステリーではないのかもしれない。おもしろかった。 |
密室殺人ゲーム2.0 2012年11月25日(木) |
女子大生殺害容疑で逮捕された学生は、「ゲーム」であると供述し、<92 912 928 1013 1024 1104>と数字を記した。ネットのチャットで、<頭狂人>、<伴道全教授>、<axe>、<ザンギャ君>、<044APD>の5人がこの謎に挑んでいた。探偵マニアかと思いきや、彼らは実際に密室殺人を犯し、その謎解きをゲームにしていた。しかも、同じゲームをしていた逮捕されたグループと同じ名を名乗って模倣ゲームをしていたのだった。そして、いつも鮮やかに推理していた<044APD>が出題する番となった。 考えられ内容は悪趣味な設定。メンバーそれぞれが仕掛けるトリックは、劇中劇的な感じだくだらない。おもしろいことはおもしろかった。本格ミステリ大賞受賞作。 |
春から夏、やがて冬 2014年8月29日(金) |
平田誠は、万引きした若い女を捕まえたが、免許証の昭和60年という生年を見て、帰らせてしまった。平田の娘は同じ昭和60年生まれて、高校生の時自転車に乗っていて交通事故で亡くなっていた。平田はスーパーベンキョードーの本社で取締役候補にまでなっていたが、娘の事故死と妻の自殺の後、地方の店で保安係をしていた。それから、その女末永ますみが付きまとうようになり、平田は職もなく同居する男の暴力にあっているらしい女に援助を与えるようになる。会社では、万引きを見逃した見返りに交際を強要していると思われていた。平田は肺がんが見つかったが、治療を拒否していた。末永ますみは治療を願った。 犯人探しもトリックもないが、意外な展開となり、さらに衝撃的などんでん返しに驚くミステリーだった。 |