宇佐美まこと

愚者の毒      

愚者の毒 2013年1月9日(月)
 一九八五年、職業安定所で生年月日が同じことから紹介先を間違えられたことで、香川葉子と石川希美は知り合った。火事で亡くなった妹夫婦の子、達也を引き取った葉子だが、その妹の借金を背負って夜逃げしていた。弁護士事務所に勤めていた希美から、顧客である深大寺の難波家の家政婦を紹介された。当主は中学校の教師をしていた”先生”で、ナンバテックという会社は、息子の由紀夫が経営にあたっていた。由紀夫は、亡くなった奥さんが前夫との離婚後離れ離れになっていたのを、加藤弁護士が探し出したのだった。葉子に平和な日々が訪れたのだったが、ある日留守の間に”先生”が亡くなっていた。先生の書斎の書棚を見て、葉子は違和感を感じた。
 二○一五年の伊豆の有料老人ホームから、一九八五年東京で物語が始まり、第二章は一九六五年の筑豊炭田の廃坑集落に移る。ここで、これは一種の叙述トリックだと気づいた。ミステリーとしては、物語の展開と共に謎が明らかになっていくというものだが、最後にどんでん返しのようなものがある。ミステリーとしてだけではなく、読み応えのある作品だった。日本推理作家協会賞受賞作。