浦賀和宏

彼女は存在しない 記憶の果て    

彼女は存在しない 2012年7月21日(土)
 香奈子が駅前で貴治と待ち合わせしていると、見知らぬ女性から「アヤコさんではないですか?」と声をかけられた。由子というその女性と何度か会ううち、香奈子は自分自身の父からの性的虐待の経験から、由子は解離性同一性障害ではないかと疑う。根本は、父がある事件で亡くなり夜逃げ同然に引っ越して、最近母も亡くなって妹と二人暮らしだった。妹は部屋に閉じこもって暮らしていたが、最近外出するようになり、挙動が不審なので後を追うと、駅前で若い男女と会っていた。妹の部屋には解離性同一性障害の本があり、妹自身時々根本のことが分からなくなり別の人格のようにふるまうことがあった。そして、貴治が刺されて殺さる。
 多重人格だから、誰が誰かということを把握すればすっきりするはずだが、うまい具合にはぐらかされた感じ。登場人物の行動がみな怪しく思えるくらい不自然で、特に根本の幼稚さが気になった。

記憶の果て 2015年10月3日(土)
 直樹の父が自殺した。父の書斎のコンピュータの電源を入れると、〔あなたは誰〕、〔私は裕子〕と答えてきた。母に訊ねると、直樹が生まれてすぐ自殺した姉が裕子だという。会話を交わすうち、コンピュータに意識があるように思えて、いつの間にか姉の裕子を愛するようになっていた。葬儀の日、佐々木という女性が弔問に来て、直樹の顔を見つめて涙を流して去っていった。離婚した、裕子と直樹の実の母親ということがわかった。コンピュータの中の裕子のことで、友人の金田と飯島に相談する。そして、父の同僚だった萩島、実の母親の佐々木を訪ねる。
 人工知能、自殺の理由、親子関係、そしてバンド活動で知り合った浅倉幸恵と謎が多く、興味津々で読んだが、浅倉幸恵はこの作品では何の関係もなく、主人公の直樹は最初から最後まで性格が悪いままで、結末も夢中夢なのか何なのか訳がわからなくて、読んでしまったのが時間の無駄だった。メフィスト賞受賞作。