上野哲也

ニライカナイの空で      

ニライカナイの空で 2003年11月14日(金)
 主人公新一は、父が相場関係の仕事でほとんど家に寄りつかず、婆やに育てられているひ弱な小学6年生。それが、父の仕事の失敗で父の戦友に預けられることになり、一人福岡の田川という炭鉱の町へ行く。時代は東京オリンピックの前年、1963年である。着く早々、鬼のような男に恐れをなしてすぐ逃げ帰ろうと決意するのだが、その息子で同い年の竹雄に気に入られて、しばらくすると福岡の言葉にもなじんでいく。この竹雄には秘密があって、それはお金を貯めてヨットを作って、玄界灘の無人島へ行くということ。夏休み、玄界灘近くの沖縄出身の親戚のおじいさんの世話になり、新一も一緒にヨット作りを手伝い、完成したヨットで海へ乗り出していく…。このヨットが「ニライカナイ号」、沖縄の言葉で海の彼方。
 物語の時間の流れが何度も前後するのがダイナミックに感じさせ、主人公の少年の心の内面を風景に投影して丁寧に描きこんでいるのが読んでいてうれしい。「その海を今、僕は両手で支えている。なんで嘆く必要があろう。なんで不安になることがあろう。勇気を持ってまっすぐに、目の前の海を突っきって行けばいいのだ。あの夏のようにニライカナイの翼に乗って、胸を張って堂々と進んでいけばいいのだ。そして、竹ちゃんとともに言おう。僕らを未来へといざなう希望の風に心震わせ、ちょっぴり眩しそうにこう叫ぼう。ようそろう」物語の最後の言葉である。