上橋菜穂子

狐笛のかなた 精霊の守り人 闇の守り人  

狐笛のかなた 2007年1月21日(日)
 小夜は夜名ノ里のはずれの夜名ノ森の端に産婆を生業とする祖母と二人きりで暮らしている。十二歳の小夜は他の里人とは違うことがわかっていた。ある日の夕方、小夜は犬に追われる子狐を助け、夜名ノ森の中にある森陰屋敷に逃げ込む。そこには、小春丸という閉じ込められてすごす少年がいた。そして、子狐は呪者によって使い魔にされた霊狐だった。
 四年たち、祖母が亡くなり、ひとり暮らしている小夜は、薬草を売りに出かけた年越しの市で、母の知り合いだという大朗と鈴という兄妹と出会う。一人帰る夜の山道で小夜は盗賊に会うが、一人の若者に救われる。小夜はその若者を繰り返し思い出すようになる。
 ある夜小夜は大朗に誘われる不思議な夢を見、その朝外で馬が待っていた。その馬に乗ると、大朗たちの住む梅が枝屋敷にたどり着く。そこで、小夜は記憶の封印を解かれ、母の亡くなった真相を知る。小夜の住む春名ノ国の有路ノ一族と、隣国湯来ノ国の湯来ノ一族と血のつながりがありながら、憎み合い、湯来ノ国の呪者によって母も殺されていたのだった。小夜の中から次第に不思議な能力がよみがえり、両国の争い、呪者との戦いに巻き込まれていく。
 言ってみれば、「指輪物語」とかRPGのようなファンタジーの戦国時代版で、おもしろく読めた。小夜や霊狐・野火のキャラクターも魅力的。心の動きや物語の進行がごく簡単に決まってしまうのは、児童文学ということでわかりやすくていいかもしれない。野間児童文芸賞受賞作。

精霊の守り人 2008年1月9日(水)
 短槍使いの女用心棒バルサは、川に落ちた新ヨゴ皇国の第二皇子チャグムを助けたことから、母親の二ノ妃の館へ招かれる。その夜、チャグムが何か恐ろしいモノに宿られ、そのため帝に命を狙われているという話を聞かされ、その命を守るためバルサはチャグムを連れて逃亡することになった。帝の隠密である狩人たちから逃れたバルサは、おさななじみの薬草師タンダに助けられ、チャグムに宿ったものがニュンガ・ロ・イム<水の守り手>の卵で、産みつけられた子はニュンガ・ロ・チャガ<精霊の守り人>だと知らされる。新ヨゴ皇国の先住民族ヤクーに伝わる伝説によると、夏至の満月の夜に卵が無事に孵らなければ大旱魃が続くのだという。そして、ラルンガ<卵食い>がその卵を狙って襲うのだという。バルサ、チャグム、タンダは呪術師の老婆トロガイとともに狩穴という洞窟に身を隠して、冬を過ごし夏を迎える。その頃、都の星ノ宮では星読博士のシュガが、大聖導師ナナイの手記を読み解いて、二百年前の建国時の水妖退治の真相を解明しようとしていた。
 世界を救う使命を与えられた少年が、戦士や呪術師に守られながら最後に怪物と対決するという、型通りのファンタジーの日本版。バルサの過去やチャグムの成長も描かれていて、楽しく読めた。シリーズものだそうだ。野間児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞受賞作。 

闇の守り人 2008年10月3日(金)
 女用心棒のバルサは、故郷のカンバル王国へもどろうとしていた。6歳の時、王位争いに巻き込まれた父カルナの頼まれた、短槍の名手ジグロに連れられて脱出して以来だった。ジグロはバルサに短槍を仕込み、カンバルからの刺客をことごとく倒し、その後病で死んでいた。故郷へ続く洞窟の中で、バルサはヒョウル<闇の守り人>に襲われたカッサとジーナという兄妹を助けた。バルサは父カルナの妹ユーカに会い、カルナの死やジグロとの逃亡のいきさつを話す。一方、カッサからバルサの存在を知ったジグロの弟で王国の英雄ユグロは、秘密を知るバルサを葬り去ろうとする。ユグロは大きなたくらみを持っていた。山国で貧しいカンバル王国は、十数年に一度<贈りの儀式>で<山の王>から送られるルイシャ(青光石)に支えられている。儀式に参加できるのは王と<王の槍>と呼ばれる選ばれた者だけで、儀式のことは秘密にされていた。
 シリーズ2作目。<贈りの儀式>とは何なのか、<闇の守り人>とは誰なのかといった謎や、牧童と呼ばれる人々のもう一つの世界も興味をひいておもしろい。この作品も楽しく読めた。