上田岳弘

私の恋人 ニムロッド    

私の恋人 2018年4月14日(土)
 一人目の私は約10万年前のクロマニョン人で、洞窟に未来を予測したヴィジョンや思想を書き綴っていた。二人目の私はユダヤ人のハンリヒ・ケプラーで、ナチの収容所で超然と死んだ。三人目の私、井上由祐は今、一人目の私の空想の産物であり、二人目の私が独房で思い続けた「恋人」を目の当たりにしている。彼女、キャロライン・ホプキンスは、死を前に「行き止まりの人類の旅」に出た高橋陽平と一緒に旅をし、遺骨を持って日本に来た。
 10万年前の私とか、「行き止まりの人類の旅」とか興味深いのだが、実際書かれていることが、彼女がいまだに心酔しているらしい亡くなった男への嫉妬でしかないような気がして、拍子抜けな感じもする。三島賞受賞作。

ニムロッド 2022年11月13日(日)
 データセンターで働いている僕は、ある日社長から、中本哲史と同姓同名のサトシ・ナカモトが発明したビットコインを空いたサーバーで採掘するよう言われる。作家を目指したものの新人賞に落選し続けて鬱になり、名古屋に転勤した元同僚の荷室から、ニムロッドという名で「ダメな飛行機コレクション」という文章がメールで送られてくる。週一で会っている田久保紀子は、染色体異常が見つかった子供を産まなかった後離婚していた。荷室は、高い塔に住みダメな飛行機を屋上にコレクションする人間の王ニムロッドの物語を送ってくるようになり、最後「桜花」で飛び立つ。田久保紀子からは「疲れたので東方洋上に去ります」というメッセージが来て、二人とも連絡が取れなくなる。
 あらすじとかはあまり意味ないのかもしれない。全体として作品の世界が成立している興味深い作品。芥川賞受賞作。