柄刀一

殺意は砂糖の右側に 3000年の密室 OZの迷宮  

殺意は砂糖の右側に 2004年2月29日(日)
 名前を以前から知っていたかどうかは分からないが、初めて読む作家。本屋で、IQ190の天才探偵登場というのが目についてつい買ってしまった。IQ190の天才なら、事件が起こって直ちに謎を解くから1ページで終わってしまいそうなものだが、そこは商売だから、早合点があったり、裏の裏をかいたりとかいろいろあって、結構おもしろく読ませてくれる。
 天地龍之介は、小笠原諸島で祖父で変人の博士に育てられ、その祖父が亡くなったので、東京の従兄弟の元に身を寄せることになる。彼自身も超博学なのだが、感覚がちょっとずれていて、そのボケたところがかわいいキャラクターだ。 この作品は連作的な短編集で、龍之介が従兄弟の光章のアパートに身を寄せて、祖父の死後身を託されている祖父の旧友である中畑氏を探してフィリピンまで行く間に何度も殺人事件に巻き込まれ、その謎を解決していくというもの。感覚的には、推理というよりは、北村薫とか加納朋子の謎解きに近い感じだ。

3000年の密室 2007年5月12日(土)
 長野県下の中部山岳地帯の、内側から人工的にふさがれた洞窟で見つかったミイラは、3000年前に密室状態の洞穴で殺された縄文人だった。調査研究のため、長野歴史人類学研究所で人類博物室室長の殿村園代をリーダーとするチームが 、サイモンと名付けられたミイラの解剖に当たる。サイモンが穂摘み具という稲作に用いられる道具を持っていたことから、縄文農耕論をめぐって学者間で論争が起こり、マスコミにも注目される。一方、ミステリーマニアの研究員弓岡真理子は、密室の謎解きに夢中になる。真理子の両親は今はなく、夜は 祖父と居酒屋を切り盛りしている。そんな中、サイモンの発見者であるNJユニバーシティーの考古学マニア館川が姿を消した。失踪当日館川を見かけていた真理子は、碑文を発見して探索していたらしい館川の捜索に加わり、崖に宙吊りになった館川の遺体を発見してしまう。子供の時から勘の鋭い特殊な能力を発揮していた真理子は、館川の死の謎、そして3000年前の密室の謎に迫っていく。
 ミステリーマニアで、昼は研究員、夜は居酒屋の手伝いで夕食は酒とおつまみ、そして両親の死のトラウマを抱え、推理の能力を持つという、弓岡真理子のキャラクターがおもしろかった。

OZの迷宮 ケンタウロスの殺人 2008年5月22日(木)
 「密室の矢」:密室で坂出巌が死んでいた。そばには半分だけの折れた矢が転がっていた。食事会のため出張していたオーナーシェフ鷲羽恭一が謎を解く。
 「逆密室の夕べ」:連休明けのスポーツクラブで創業メンバーの京西一也、光二兄弟が死んでいて、同じく創業メンバーの小口四郎が用具室に閉じ込められていた。
 「獅子の城」:森の中の川岸で犬伏盛也の死体が発見され、彼の部下で借金のあった的場雅人が逮捕された。兄の俊夫は弟の容疑を晴らすべく、鷲羽のレストランを訪ねる。
 「絵の中で溺れた男」:密室状態のアトリエで画家テッド・マクレーンが死んでいた。死因はなぜか溺死だった。娘のリサの要望で宿泊することになっていた月下二郎は、保安官に協力を申し入れる。
 「わらの密室」:地方検事マンフレッド・ダーガーの邸宅で、秘書のマイケル・ギルバートが殺されていた。同じ部屋に弁護士のベンジャミン・リッグスが頭を殴られて閉じ込められていた。ダーガーのチェス仲間で泊まりに来ていた月下が推理するが・・・。
 「イエローロード」:南美希風は遊歩道を散策中、川岸で死体に遭遇する。男は、百円硬貨二枚、五十円硬貨一枚、十円硬貨五枚を握りしめていた。
 「ケンタウロスの殺人」:心臓移植手術の執刀を受けたキッドリッジ医師を訪ねていた南美希風は、上半身が人間、下半身が馬という奇妙な白骨が発見されるという事件に遭遇した。
 主に密室トリックをテーマにした短編集。「密室の矢」、「絵の中で溺れた男」は作られた密室、「逆密室の夕べ」と「藁の密室」は密室の作り方と利用の仕方がそれぞれ共通している。短編集とは言っても探偵役が交代するリレー形式になっていて、探偵小説としては禁じ手が使われている。「美羽の足跡」と「本編必読後のあとがき」は種明かしのようなもの。