遠田潤子

月桃夜       

月桃夜 2016年3月2日(水)
 茉莉香は奄美の浜を出て、パドルを失ったカヤックで夜の海を漂っていた。どこからか子どもの歌声が流れてきて、片目の大きな鷲が艇首に止まり、話しかけてきた。この世の終わりを待っていると言い、ヤンチュという一番底にいた身分のフィエクサとサネンという兄妹の物語を語り始めた。フィエクサはヤンチュの両親から生まれたヒザと呼ばれる生まれながらのヤンチュで、サネンはヤンチュに落ちて逃亡をはかって死んだ男の娘だった。二人は兄と妹として生きて行くことを山の神に誓った。
 江戸時代の奄美大島の悲惨な歴史がもとになっていて、フィエクサとサネンの運命に茉莉香自身の行動も重なるところがあって、興味深く読めた。日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

冬雷 2020年6月16日(火)
 大阪で鷹匠の仕事で一人暮らしている夏目代助のもとへ警察が訪れて、千田翔一郎の遺体が見つかったと告げた。翔一郎は義弟で、十二年前行方不明になっていた。孤児院で育った代助は小学五年生の時、海辺の田舎町で製塩業を営みながら鷹匠として地元の神事に携わる千田家の冬雷閣の養子になった。ともに神事を司る鷹櫛神社の巫女、加賀美真琴は同級生で、いつしか思い合うようになっていた。町には姫と怪魚の祟りの伝説があり、巫女と鷹匠の神事が重要な役割を果たしていた。しかし、千田家に実子が誕生すると代助は厄介者にされてしまい、翔一郎が行方不明になると殺害を疑われ、町を出ていた。葬儀のために町を訪れると拒絶に会うが、真琴が疑われていると知り、真相を探ろうとする。
 伝説と因習の町、旧家と神社、鷹匠と巫女、失踪、殺人、自殺、誘拐、純愛、不倫、とてんこ盛り のミステリーで、おもしろかった。未来屋小説大賞という賞を受賞したそうだ。