多和田葉子

犬婿入り 雪の練習生    

犬婿入り 2005年3月27日(日)
 「ペルソナ」:道子はドイツ文学を研究するために留学し、弟の和男と同じアパートで暮らしている。ある時、精神病院に勤める友人から、院内で看護士の韓国人に対して、やさしそうに見えても仮面のような顔の下で何を考えているのか分からないと噂する人が増えたという話を聞く。
 「犬婿入り」:多摩地区の町にある「キタムラ塾」は、北村みつこという正体不明の女性が空き家を借りて始めた塾で、「キタナラ塾」と呼ばれて子供たちには人気がある。そこへある日突然若い男がやってきて、いきなり交わり、食事を作って掃除をしていついてしまう。
 「ペルソナ」は留学生のノイローゼを描いた作品といえばそれまでだが、「のだった」が繰り返される文体が独特の感覚を感じさせる。「犬婿入り」は村田喜代子風の、幻想的だが軽くて明るい作品で、芥川賞受賞作。

雪の練習生 2014年2月25日(火)
 サーカスの花形だったホッキョクグマの「わたし」は、管理職に移り、事務の仕事をするようになった。子供時代のことを思い出したら苦しくなってきて、アパートのおばさんに勧められて自伝を書き始めた。昔の知り合いで文芸誌の編集長になっているオットセイのところに便箋を持って行くと、知らない間に雑誌に載って「わたし」は有名人になっていた。娘のトスカは女優だったが、役にケチをつけたことからサーカスに移ることになった。女調教師のウルズラと「死の接吻」の芸を成功させた。ベルリン動物園に売られた後、コンピューターを買い込み、ウルズラの伝記を書き始める。トスカの子供クヌートは、トスカの育児放棄のため人間の飼育員に育てられ、環境保護のアイドルとして人気者になって行く。
 実在のホッキョクグマ・クヌートに基づいた小説。ホッキョクグマが文字を書いたり、人と話をしたり、新聞を読んだり、テレビを見たりするファンタジックな作品。ホッキョクグマの視点、生まれたばかりのクヌートが成長していく様子がおもしろい。野間文芸賞受賞作。