谷崎由依

鏡のなかのアジア      

鏡のなかのアジア 2021年12月22日(水)
 「……そしてまた文字を記していると−チベット」:岩山の僧院で写本する少年、「Jiufenの村は九つぶん−台湾、九份」:九つの家が建っていて何を買うにも九つ買って分け合う村、「国際友誼−日本、京都」:サークルハウスのパーティーに集まる男子学生、女子学生、そして留学生、「船は来ない−インド、コーチン」:海辺の市場で初めて盗みを働いた少年、「天蓋歩行−マレーシア、クアラルンプールほか」:都市ができる前の森の巨大樹だった男。
 幻想的な情景が繰り広げられるアジアの各地を舞台にした短編集で、一つ一つストーリーを要約していたらきりがないし、意味もないかもしれない。「文字を記していると」は言語表現と少年の感性が、「天蓋歩行」はかつて樹木だった男のモノローグが印象的だ。芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞作。