田久保英夫

深い河 辻火      

深い河 辻火 2007年2月20日(火)
 「深い河」:朝鮮戦争のさなか、僕は九州・雲仙の米軍キャンプで血清を採るための馬の世話をするアルバイトをしていたが、4頭の格外馬の世話のため、変わり者の女子学生と二人で残留することになった。しかし、そのうちの1頭が伝染性の病気にかかっていることがわかり、雇い主の獣医が逃亡して置き去りにされ、米軍からの指示もないまま馬の世話をし自炊する生活が続く。昭和44年の芥川賞受賞作。
 「辻火」:入院している母からの頼まれごとで、子供の頃過ごした町に叔母の家を訪ねる。用事というのは、叔母と血のつながらない娘スミコと義理の従兄弟のモリオの関係に決着をつけることだった。川端賞受賞作。
 他に、「髪の環」、「蕾」、「氷夢」、「レイシーの実」、「生魄」を収録。平成13年までの7冊の作品集から1編ずつ収録した短編集。作者自身とも思える主人公をめぐる、肉感的ともいえる濃密な人間関係をクールに描いている。心理を投影した情景描写 、ラストの破綻など、非常に古典的な味わいの短編小説。