滝口悠生

愛と人生 死んでいない者    

愛と人生 2019年4月27日 (土)
「愛と人生」:映画「男はつらいよ」シリーズについて語っていて、語り手の《私》が寅さんだったり、さくらだったりして、「男はつらいよ」の世界に入り込んでいくのだが、途中で子役だった男性と、タコ社長の娘役で出ていた美保純の道行きに変わっていく。おもしろいといえばおもしろいが、作者は美保純が好きだったのかと思う程度。野間文芸新人賞受賞作。
「かまち」・「泥棒」:向かいの家の、玄関の上がりかまちに座布団を敷いて噺をする、《アマチュア女性落語家犬猫亭つばき》こと伊澤さんや、斜め向かいの《チンピラの熊》などを巡る日常の出来事。どこか、保坂和志風だ。
 どこがどうということもないが、何となくおもしろいとは言える。

死んでいない者 2019年11月4日 (月)
 ある老人が亡くなり、地区の集会所の通夜に子、孫、ひ孫が集まる。知っている者もいれば、どこの誰だかわからない者もいる。年齢の近い者同士集まって、酒を飲んだり、風呂へ行ったりする。そして、それぞれが直接故人とは関係ない回想に浸ったり、思いを巡らしたりする。
 一種、とりとめのない群像劇で、それぞれのエピソードはそれなりにおもしろいのだが、全体としてはずいぶんとぼやけた印象で、前作の「愛と人生」と同じような作風。芥川賞受賞作。 賞の選評を読んでも、選考委員自身の作風によって評価が割れているようだ。