高橋三千綱 |
九月の空 |
九月の空 2007年2月14日( 水) |
勇は高校の合格が決まるとすぐ、剣道部の合宿に参加した。剣道は、現在でも刀を持って戦う人々の心意気を感じて、中学の時から始めていた。家庭を顧みない売れない画家と保険の外交員で家計を支える母、剣道の稽古と試合と仲間達、同級生の松山との交際、夏休みの一人旅、同級生の母のバーでのアルバイト。そんな青春模様がさわやかに描かれた、「五月の傾斜」、「九月の空」、「二月の行方」の短編連作集。 「九月の空」は社会人になった頃の芥川賞受賞作。現在に限らず、当時の高校生でもビールも飲むしセックスもしたのだろうが、この主人公は、真面目というわけではないが純粋で一本気だ。 「半年前、刃を振りかざして吹きつけてくる寒風に、首を縮めた。肩に力が入り、骨が軋む。たまらず背中を丸めると、耳が持っていかれ、顔だけ上げると鼻がそがれた。入学したいと思っていた高校を下見に行く途中でぶつかった十二月の風を見て、勇は芯から凍った躯の中央に、一本、確かな自覚を備えた緊張感が張りつめるのを感じた。」 |