高橋克彦

広重殺人事件 緋い記憶    

広重殺人事件 2003年1月2日(木)
 このミステリーは、「写楽殺人事件」「北斎殺人事件」と続く浮世絵ミステリー3部作の最終作。主人公津田良平は浮世絵研究家、ユニークな発想で浮世絵師の謎に迫るが、その途上贋作が絡んだ事件に巻き込まれ、知人を殺人事件で失う。浮世絵師の謎を探る歴史ミステリー、殺人事件とその背景にある贋作問題が平行して、関連しながら解明されていくところがおもしろい。ただ、東京の大学で助手をしていた主人公が、この作品では田舎の純朴な青年と描かれていて極端に感情的になったりするのは、不自然。「写楽」は乱歩賞、「北斎」は推理作家協会賞受賞作。

緋い記憶 2006年12月22日( 金)
 出張で上京した学生時代の友人から預かった、学生当時の盛岡の住宅地図にはあの古い家が見当たらなかった。クラス会をかねた厄払いのパーティで盛岡を訪れ、妖精のような少女と過ごした家を探すが、そこは以前から空き地だったと 言われる。誰にも言えなかった記憶を友人に打ち明けると、意外な事実が明らかになる。(「緋い記憶」)一枚の絵から場所が分かった、母が自殺した温泉旅館を訪ねて、住み込みの母子と知り合う「ねじれた記憶」。なぜか鮮やかに記憶に残っている缶蹴り遊びの日に起きた少女の失踪事件、その兄に記憶を打ち明けているうちに真相を思い出す「言えない記憶」。幼い頃過ごした盛岡を取材がてら訪れ、当時家で一緒に遊んでいた女性と再会する「遠い記憶」。食中りがひどくなり、原因を探って母の生まれ故郷である岩手の山村を訪れて恐ろしい事実を知る「膚の記憶」。学生の頃ロンドンの安ホテルでともに過ごした思い出を記した作品から、失踪した女性の行方を追及される「霧の記憶」、病気が癒えてバスツァーに叔母と共に参加するが、目的地に立ち寄るごとに怖い記憶が甦る「冥い記憶」。
 封印していた記憶、意識の底に眠っていた記憶、錯誤されていた記憶といった、記憶をテーマにしたミステリー短編集。母と子、少女との思い出というのも主要なモチーフとなっている。オカルトじみている「ねじれた記憶」と「遠い記憶」が特におもしろい。直木賞受賞作。