高楼方子

十一月の扉      

十一月の扉 2009年3月18日(水)
 木立のあいだからのぞく、赤茶色の屋根の白い家。双眼鏡のレンズの中にあらわれたその家に行ってみたいという思いが高まり、爽子は自転車に飛びのった。白い木の門には「十一月荘」という小さな看板がかかっていた。途中「ラピス」という他とは趣のちがう文房具店を見つけ、ドードーが表紙に描かれた高価なノートを買ってしまう。その翌日、父の転勤で東京へ転向するという話が持ち上がった。爽子は冬休みまでこちらに残ろう、十一月荘に住もうと決意する。母と一緒に訊ねると、出てきた婦人は中学生を下宿させることを了承し、母もなぜかあっさりと認めてくれた。こうして、爽子は十一月荘の住人となる。大家さんの閑(のどか)さん、下宿人の建築士の苑子さん、苑子さんの高校時代の同級生の馥子さんと娘のるみちゃん、かしましい隣人の鹿島さん、爽子の心を揺らすことになる耿介くんといった人々をモチーフにした物語を、ドードー鳥のノートに書き始める。
 十一月荘の人々はみな魅力的な人々だし、爽子も母や耿介のことで感情を乱したりするが、すぐ冷静に反省する。良い人良い子過ぎて現実感に乏しい感じもするが、ファンタジーだからこれはこれでいいのだ。もう少しワンダーがあるともっと良かった。産経児童出版文化賞フジテレビ賞受賞作。
 「『十一月には扉を開け』ってことよ。どっちがいいかって迷うことがあっても、それが十一月なら前へ進むの。十一月に起こることは、とにかく前向きに受け入れようって、いつのまにか、そう思うようになっちゃった。」