田口ランディ

コンセント アンテナ モザイク  

コンセント 2003年12月21日(日)
 兄が死んだという知らせを受けて、フリーライターの朝倉ユキは実家に帰る。暴力をふるい引きこもっていた兄は、アパートを借りて独立し、そして生きることを放棄して衰弱死していた。 部屋の死体は腐乱し、周囲に悪臭を放っている。その時からユキは人の死臭を感じ、兄の亡霊を見るようになり、心理学のかつての指導教授のカウンセリングを受けたり、同級生だった精神科医に会って、兄の生と死の意味を求めようとする。その兄は、プラグを持っていてコンセントにつながった時だけ生きるという少年の話をしていた・・・。
 コンセントというのは、エネルギーの供給源、あるいは異物の侵入口、あるいは人間の共有記憶層へのアクセスと語られたりする。コンセントをはずすことが、ある場合は他者や世界からの解放であったりもする。主人公がどのように兄の死を理解し、目覚め、解放されていくんだろうと思って読んでいたが、結末は意外なもので、皮肉な言い方だがある種現実的な解決となっていてあっけない思いもした。しかし、おもしろく読めたし 、人と人の関係性などあれこれ考えさせられてしまった。
 最近名前をよく見るような気がして買ってみたのだが、名前からして男性だとばかり思っていたが、ネットでプロフィールを調べたら女性だった。

アンテナ 2004年3月3日(水)
 田口ランディの作品はこの前「コンセント」を読んだだけだが、自分探しあるいは家族の絆探しといった感じのテーマと、心理分析やシャーマニズムといった舞台仕立てが魅力だ。
 哲学科の大学院生祐一郎の妹真利江は、15年前の朝目覚めると隣の布団から消えていた。その日から家族の妹探しが始まるが、7年前に父が亡くなり、母は新興宗教にのめり込んでいく。そんな家を嫌って一人暮らしを始めるが、中学生になった弟の祐弥が突然錯乱して入院したことから家に戻る。そんな中、研究のテーマにSMを選び、先輩の美紀に紹介してもらったSMの女王ナオミに会うのだが、このナオミはなぜか自分の秘密を次々と暴いていく。ナオミとの出会いで祐一郎の内部に変化が起こり、同時にテレビ局のディレクターとともに後退催眠や風水を使って真利江探しが始まる。
 「アンテナ」というのは、祐弥が頭の先に角があってそこで真利江に触れると言っていたもの。ストーリーはすごくおもしろかったし、印象的な言葉も多いのだが、作中、美紀が「あっち側はなんでもアリの世界なんだよ。そこに答えを求めたら、どんな 問題の答えだって簡単に手に入れられる」といっているように、「コンセント」もそうだったが、超常現象的にすべてが解決してしまうというのがやや物足りないところだ。

モザイク 2004年9月7日(火)
 「コンセント」、「アンテナ」に続く電波系3部作。深層心理、精神分析、超常現象、社会現象の境界で肉親への愛情と新たな世界認識への目覚めを描いているのが共通した特徴だが、今回は主人公が最初からある種特殊な能力を持つ人間として登場しているのが異色だ。
 佐藤ミミは、問題行動のある人間を家族の希望で精神病院へ送り届ける「移送屋」。正也という十四歳の少年を移送中逃げられてしまい、渋谷の街を探し続けるうち、「救世主救済委員会」の存在を知る。
 この作品では携帯がシンボルとして扱われ、渋谷の若者の風俗が描かれているが、これはダミーのようなもので、ちょっとSF的だが目覚めた新しい子供たちとその世界観が描かれている。主人公のキャラクターも魅力的だし、「池袋ウエストゲートパーク」風な雰囲気もあって、3部作の中ではいちばんおもしろかった。