鈴木光司

楽園 リング らせん  

楽園 2003年12月17日(水)
 これは、一万年の時空を超えて引き裂かれた愛を追い求めるロマンスだ。しかし、転生でもタイムトラベルでもなく、遺伝子の物語だ。
 第1章神話:有史以前のモンゴルの遊牧民、ボグドは絵の巧みな少年。大人になる儀式としての狩の旅に出て、伝説の赤い鹿を射止め、精霊の力を手にする。しかし、北の部族に襲われて妻のファヤウを奪われる。北の部族は数百年に一度現れるという北の回廊を通って新しい土地へ移って行き、ボグドは、生き残った長老の教えに従って南へ行き、舟で東を目指す。
 第2章楽園:18世紀の南太平洋、捕鯨船が座礁し、ボートに乗り移り生き残った3人が漂着したのは楽園のような島だった。若いジョーンズは島の娘ライアと親しくなる。この島の山の中腹には、あの赤い鹿を描いた巨大な岩があった。 仲間の一人が船大工だと知ると突然島の神話が目覚め、島民たちは筏を作って東へ向かうと言い出す。島が海賊船に襲われたとき津波が起こり、ジョーンズとライアは筏で東を目指す。
 第3章砂漠:現代のアメリカ。インディアンの血を引く作曲家レスリーは、宗教家の依頼でアリゾナの砂漠にある地底湖へ行くことになる。その胸には赤い鹿の彫られた石のペンダントがあった。雑誌の編集者フローラは、祖先が筏で流れ着いたという褐色の肌を持つ女性。その肩には鹿の模様のあざがあった。そして、取材の依頼で電話で話した瞬間、二人の細胞が目覚める。
 アジアの民族が、一方はベーリング海峡からアメリカ大陸へ渡り、一方は舟で太平洋へ渡るという民族大移動の歴史と、引き裂かれた愛を求めあうロマンスを重ね合わせた、スケールの大きい物語だ。第2回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。「リング」、「らせん」よりおもしろい。

リング 2006年12月14日(木)
 雑誌記者の浅川は、乗り合わせたタクシーの運転手から突然死した若者の話を聞いて、同じ頃心不全で亡くなった姪との関連に疑問を持つ。新聞記事を調べたところ、同日同時刻に4人の男女が死んでいて、姪ともう一人の女性は同じ高校の生徒、男性2人は同じ予備校の生徒で、4人で箱根のリゾートに宿泊していたことが分かる。新種のウィールスを疑った浅川はそのログキャビンを訪れ、4人が宿泊した部屋に残されていたというビデオを見る。それは不思議な映像で、ラストに「この映像を見た者は、一週間後のこの時間に死ぬ運命にある。死にたくなければ、今から言うことを実行せよ。すなわち・・・」という文字が浮かび、その直後にCMがかぶさり終わっていた。浅川は、友人の高山にそのビデオを見せて、一緒に手がかりを探そうとする。
 映画化されて話題になった作品。呪いのビデオを見てしまった妻と娘を救うためにしなければならないこと、そちらのほうがホラーかもしれない。

らせん 2007年3月10日(土)
 大学の医学部の講師と監察医を兼務する安藤が、ある日解剖を担当したのは、大学時代の友人、トップクラスの成績で卒業した高山竜司だった。解剖を終えると、縫合したはずの腹部から新聞紙が露出し、そこには「178 136」という数字が見えた。暗号を解くと、「RING」という単語だった。竜司の死因は、冠動脈に肉腫ができて心筋梗塞を起こしたもので、喉に見つった腫瘍からは絶滅したはずの天然痘ウィルスが発見された。ウィルスの感染を恐れた安藤は検査に当たった同僚の宮下と共に同じ症状の事例を探し、雑誌記者淺川のレポートと死をもたらすビデオテープの存在を知る。
 ホラー小説で終わっていた前作「リング」の謎が「医学的」に解明され、前作のラストの浅川一家の結末も明らかになる。さらに、オカルトホラーだった前作が、バイオミステリーに進化(?)している。しかし、この作品にも未来の謎が残るのだが。10年以上前話題になった時は、テレビのない時代にビデオに呪いをかけるなんてナンセンス、怖いどころかこっけいじゃないかと無視していた。吉川英治文学新人賞受賞作。