曽根圭介

沈底魚 熱帯夜    

沈底魚 2010年10月11日(月)
 アメリカ駐在勤務の中国外交官が亡命申請し、日本の国会議員が中国に機密情報を漏洩していると供述したという。中国、北朝鮮の事案を扱っている警視庁公安部外事二課に警察庁から凸井美咲が理事官として派遣され、不破も捜査班に加わることになる。偶然再会した学生時代の友人伊藤真里は衆議院議員芥川健太郎の秘書をしていて、表向き商社の副社長で中国の情報機関の高官と接触していた。
 警察ものだから内部抗争ありで、スパイものだから当然二重スパイもいれば、裏の裏をかいたり、二転三転したりする。そういう前提のもとで、真相はどうなんだろうと楽しく読んだが、結末は空しい。江戸川乱歩賞受賞作。

熱帯夜 2013年12月25日(水)
 「熱帯夜」:学生時代からの友人の藤堂、その妻はボクの元彼女だった。夫妻の貸し別荘に遊びに行くとヤクザの借金取りが来ていた。ボクと美鈴を人質にして、藤堂はボクのアルファロメオで金策に出かけた。テレビのニュースを見ながら山道を走らせていたワタシは、何かをはねてしまった。路肩に止まっているアルファロメオには一千万円があった。
 「あげくの果て」:少子高齢化が進んで、七十歳になると徴兵検査を受けて隣国との戦場に駆り出されるようになっており、敬老主義過激派組織「連合銀軍」と「青い旅団」など排老主義青年組織が対立していた。光一は気づかぬ間に連合銀軍のメンバーになっていて、ある事情から金が必要で、警察に仲間の会合の予定を知らせた。
 「最後の言い訳」:死んだ者が蘇る蘇生者が増えていた。人の肉の匂いに魅せられて人を襲う彼らとの共生が問題になっていた。Q市役所職員の僕は、住民からの苦情でゴミ屋敷の処理に行く。そこに住んでいたのは、小学生の時隣に座っていた女の子だった。
 表題作は日本推理作家協会賞短編部門受賞作。 時間のズレと語り手の錯誤を組み合わせた叙述トリック。「あげくの果て」は、ありえそうな近未来を描いていてブラックでおもしろいし、登場人物の関係がうまい。「最後の言い訳」もエピソードの関連性がうまい。