白川道 |
海は涸いていた |
海は涸いていた 2007年6月21日(木) |
伊勢孝昭は都内に数件のレストランやクラブを所有する伊勢商事の社長だが、その会社は暴力団東友会・佐々木組につながっていた。伊勢の本名は芳賀哲郎。哲郎は、母が再婚した船医の継父と瀬戸内海の三原で幸福な日々を送っていたが、継父が航海中病死し、母も自宅の火災でなくなった後異母妹とともに神戸の施設に入れられた。弟のような施設の仲間・慎二を守るため殺人を犯してしまい少年院へ送られ、その後海が気に入った焼津で働き、ある事情から佐々木に誘われ、名前を捨てて東京へ出てきていた。そして、養女にもらわれていった妹は世界的なヴァイオリニストになっていた。 哲郎と同じ施設で育った千佳子はデザイナーを目指して東京へ出ていたが、今は夜のクラブで務めていた。付き合っている岡堀は、雑誌にゴシップ記事を売っている男だった。哲郎の妹馬渕薫のコンサートがあった夜、岡堀が射殺され、使用された拳銃は十年前に起きた迷宮入りした事件で使われたもので、当時担当した警視庁の佐古刑事が所轄へ合流することになった。その拳銃は、哲郎が実の父親を殺したもので、慎二に捨てるよう命じていたものだった。 かつての恋人今日子と焼津へ帰って再びやり直す決意をした哲郎だが、佐古の捜査が身近に迫っていて、慎二を守りたいし、妹の薫を事件から守らなければならなかった。警察の上層部も、薫をスキャンダルから守ることを命じていた。 暴力団ものなので買ったものの読む気になれず、しばらく積んだままになっていたが、読んでみたら何冊か読んだ日本推理作家協会賞受賞作よりは、はるかにおもしろかった。 「人間はその生を享けた時、二通りの人生があるんじゃないか、そう思うようになった・・・これから生きることが始まる生と、これから死ぬことが始まる生、その二つだ」「夢見ることと祈ること、この二つを持ちつづけるかぎり、人間として生きてゆける。」 |