白河三兎

プールの底に眠る 私を知らないで    

プールの底に眠る 2013年6月17日(月)
 裏山と呼ばれる丘からは、小学校のプールが見える。そのプールで小学三年の児童がなくなる事故が起こっていた。十三年前、高校最後の夏休みの最終日、紙袋に入れたものを捨てにその裏山へ登った僕は、木の上の美しい少女と出会った。彼女は自殺しようとしていた。彼女は僕をイルカと呼び、僕は彼女をセミと呼び、駅の伝言板を使って会うようになる。セミは不登校の中学生で、実家は地元の大金持ちだった。僕も九歳の時から眠れず、イルカの物語を作るようになっていた。一方、幼馴染の由利とは同じ高校に進学して、毎朝一緒に通っていた。由利は両親が離婚し、母親と暮らしていた。
 メフィスト賞受賞作 だが、事件が起こるわけでも謎解きをするわけでもないし、あっと驚くトリックもどんでん返しもない。主人公やその周辺の人物の背景が少しずつ明らかになって、そうだったのかと思わせる。ミステリアスな青春小説だ。

私を知らないで 2014年3月27日(木)
 銀行員の父さんの転勤で、十三歳の夏の終わりに僕たち一家は横浜市の外れの町へ移り住んだ。転入生になるのも四回目。「黒田慎平です」と自己紹介した際に、ダントツに美しい子が目に留まった。新藤ひかりという名前だが、『キヨコ』と蔑まれていた。僕が親しくなるのは単身世帯でタフな子だったが、キヨコもその影を濃く引き摺っていた。両親が逃げて、祖母と貧しい暮らしをしているということだった。冬休み明け、イケメンだが破天荒な高野三四郎が転入してきた。高野 に無理強いされて日曜日キヨコを尾行するが、気づかれて着いていくと、彼女は渋谷、新宿、池袋でモニター荒らしをして謝礼を稼いでいた。これがきっかけで、キヨコは高野と付き合うようになるが、近所なので電話のないキヨコの家に連絡に行ったりするうち、僕はキヨコのことを知るようになる。
 キヨコの秘密は早い段階で推察することができて、結末も予想されるのだが、その後にあっという展開が待っている。『セミ』というキャラクターをまとった女の子を好きになり、その子が『 セミ』を捨てた後も『セミ』を忘れられないという、メフィスト賞受賞作「プールの底に眠る」と双子の作品と言えるだろう。印象的な作品だ。