真保裕一

連鎖 ホワイトアウト 奪取  

連鎖 2005年3月8日(水)
 検疫所に務める羽川のもとに深夜、友人竹脇の妻枝里子から電話があった。竹脇が車で海に飛び込んで自殺をはかったということだった。竹脇は雑誌の記者で、チェルノブイリの食料汚染を告発するキャンペーンを書いていた。病院に駆けつけ、警察の事情聴取を受け、朝検疫所へ行くとファミリーレストランチェーンの倉庫の肉に毒物を混入したという警告ファクスが入っていた。上司の高木の命令で、竹脇と一緒に告発していた輸入食品検査センターの篠田の協力も得て、羽川は捜査に当たる。同時に自殺とは思えない竹脇の身辺も探り始める。そうすると、いろいろなつながりが見えてきて、竹脇の自殺の調査していた保険調査員の真希江、竹脇の同僚の橘を仲間にして、事件の中に入り込んで行く。
 たいていのミステリーは、最後に意外な真犯人が登場してどんでん返しになることが多いが、この作品ではもう一ひねりしている。江戸川乱歩賞受賞作。

ホワイトアウト 2006年11月16日(木)
 雪に閉ざされた奥遠和ダムが過激派グループに占拠された。彼らは唯一の連絡路であるトンネルを爆破し、所員を地下に閉じ込め、さらにダムの水を放流して下流の住民に脅威を与えることで警察に五十億円を要求してくる。外に見回りに出て犯人グループに狙撃され、ただ一人運転員の富樫だけが逃げ出すことができた。富樫はダムに忍び込んで放流を止め、もう一度抜け出して下流のダムの発電所までやっとたどり着いて連絡をとるが、一緒に遭難者の救出中に亡くなった同僚吉岡の婚約者が人質になっていることを知り、救出のため再び奥遠和ダムへ戻る。
 山の経験とダム内部の知識と吉岡への思いを武器に、たった一人小銃を持つ犯人グループに立ち向かう富樫、吉岡との思い出を頼りにとらわれながら脱出を試みる千晶、犯人グループの真の狙い、そして立ちはだかる雪山の恐怖。圧倒的なリアリティで描かれたアドヴェンチャー小説だ。映画化された吉川英治文学新人賞受賞作。映画は見ていないので、ワクワクしながら読めた。

奪取 2008年6月6日( 金)
 道郎は暴力団系の街金、東建ファイナンスの事務所に連れ込まれた。友人の雅人が借金の保証人にしていたのだ。百五十万円の借金は一千二百六十万円に膨れ上がっていた。一週間で返さなければヤクの運び屋にならなければならない。会社を首になってバイトで生活している道郎と鉄工所の工員の雅人には縁のない金額だった。道郎は、銀行のATMから紙幣識別機を盗み出し、見た目はともかく、機械をだますだけの偽札を作ろうと思いつく。そして、深夜銀行のATMから現金と紙幣識別機を盗み、識別機のチェックを逃れる偽札作りを始める。完成して、支店の多い新宿周辺で両替を始めるが、2つの支店で続けて変なジジイに出くわす。仕事を終えてアパートに戻ると、部屋でそのジジイが待っていた。さらに、ニュースで道郎たちの仕業だと見破った東建ファイナンスの連中も襲ってきた。ジジイに助けられた道郎は名前を変えて、そのジジイ、偽札作りの名人だったコウさんとその仲間だった男の中学生の娘幸緒と再び偽札作りを目指す。
 長いので偽札作りの製紙や印刷の細かい過程は流して読んだが、コウさんや幸緒のキャラクターがいいし、ユーモラスでどこか青春小説っぽくておもしろかった。ラストの落ち、そして最後の落ちも笑えた。日本推理作家協会賞、山本周五郎賞受賞作。