篠田節子

ゴサインタン 神の座 女たちのジハード 仮想儀礼 スターバト・マーテル
鏡の背面      

ゴサインタン 神の座 2004年12月3日(金)
 結木輝和は、都市化の続く八王子の豪農の跡取り。40間近で結婚できず、市会議長まで務めた父の後を継いで農家を代表するような立場にあるが、青年部の若手のように農業に熱意を持っているわけでもな く、跡取りという立場にとらわれているだけである。友人に誘われて、ネパール人と集団お見合いすることになり、母に薦められるまま日本的な顔立ちのカルバナ・タミという若い女性と結婚し、中学時代好きだった子の名前で淑子と呼ぶようになる。淑子には母親がついて仕事から家事から言葉まで教えるが、なかなか日本語を覚えようとしない。そのうち奇妙なことが起こりだす。だめになった野菜が淑子が触れると青々としてきたり、行方不明になって遠く離れた場所で見つかったり。そして、父に続き母も亡くなると、神がかった言葉を言ったり、近所の病人を治したりするようになり、家は新興宗教の集会所のようになっていく。
 神がかっていく淑子に従うまま輝和は文字通りすべてを失ってしまうが、再び失踪した淑子を追ってネパールへ捜しに行く。SF的でミステリアスなのに、郊外の農家や複雑なネパールの国情などかなりリアルに描いてあって社会派に振れたりするところもあるが、これは一人の男が全てを捨てて生まれ変わる物語だ。山本周五郎賞受賞作。

女たちのジハード 2006年11月10日(金)
 保険会社に務める、残業帰りに一緒にスパゲッティを食べて帰る仲の5人のOLの奮闘記。
 三十代で同期は総合職になるか結婚退職した康子は、とんでもない身勝手男に愛想をつかせて、マンションを買おうと決意する。有利な結婚を目指して策をめぐらすリサは、狙いをつけた男がなんとほかの女とできちゃった結婚をされてしまう。その相手は、同じ仲間20歳の紀子だった。エリートと結婚した紀子だが、仕事も家事もとろくて夫の暴力を受け、子供も流産してしまう。仕事のできるみどりは、社内結婚の夫が昇進するのと入れ替わりに出向させられ、さらに退職に追い込まれる。キャリア志向で入社後も専門学校で英語を勉強してきた紗織だが、三年たって何の展望もなく、先生の翻訳の下訳の仕事もただ働きされていたことに気づく。
 暴力団を敵に回して競売マンションを手に入れる康子、康子の世話になって勉強やアルバイトを始めるが性懲りもなく結婚してしまう紀子、役員、管理職の覚えが良くて望みもしないのに重責を任せられるリサ、翻訳、留学と自立を目指して右往左往する紗織、専業主婦になってもしっかり活動しているみどり。そして、リサは思いもかけないジレンマに陥り、康子は偶然が呼び寄せた縁に飛び込んでいき、紗織は日本人留学生社会から抜け出して意外な方向へ向かう。
 「世の中に『普通のOL』などという人種はいないし、『普通の人生』もない。いくつもの結節点で一つ一つ判断を迫られながら、結局、たった一つの自分の人生を選び取る。」
 おもしろかった。笑える悲劇か、泣ける喜劇か。リアルタイムで読んでいればもっとおもしろかっただろう。直木賞受賞作。

仮想儀礼 2012年3月8日(木)
 東京都庁のシステム管理課長になった鈴木正彦は、趣味の延長でゲームのシナリオを書いていたが、ゲーム会社の矢口のゲームブックを出版しようという誘いに乗って仕事をやめた。しかし、矢口が写ったプロダクションが倒産し、出版の話はなくなり、仕事も妻も失ってしまった。路上で捕まえた矢口を追及すると、矢口も職を失って路上生活者になっていた。二人でこれからどうするか話しているうち、矢口が事業として宗教をやろうと言い出す。聖泉真法会と名前をつけ、教祖は鈴木のペンネーム桐生慧海とし、鈴木が作ったゲームブックをもとにチベット仏教風の教義を作ってホームページを作る。信者を三十人集めれば食っていける、五百人集めればベンツに乗れるというわけだ。事務所にしたマンションの自殺のあった1階の喫茶店と部屋を交換して教団本部にすると、問題を抱えた女性や生きづらい系の若者、他の宗教団体をやめた宗教オタクの女性たちが集まってくる。そして、一人の経営者が入信したことから教団は飛躍的に発展していくのだが…。
 インチキ新興宗教団体が拡大し、教祖たちの手を離れて暴走し、マスコミや社会に糾弾され、崩壊していく過程を描いた力作。妙にリアリティがあっておもしろかった。柴田錬三郎賞受賞作。

スターバト・マーテル 2013年3月6日(水)
 「スターバト・マーテル」:アクアクラブのプールで彩子に声をかけてきたのは、中学時代の同級生境だった。仲間はずれにされていた彩子と、秀才でありながら怜悧さで嫌われていた境だった。乳がんの手術以来 死の観念が居座り続けている彩子は、境に同じ感覚を感じた。クリスマスに夫婦で境の家に招かれて目にしたのは、亡くなった息子を今でも生きているものとしようとしている境の妻の姿だった。そして、その訪問のことで警察が聴取に来る。ある人物の行方不明にかかわっているとのことだった。芸術選奨文部科学大臣賞受賞作。
 「エメラルド アイランド」:泉子は、学生時代の友人千晶の結婚式のため、高級リゾートアイランドを訪れていた。秀樹の実家の反対で、同行したのは千晶のママと友人の由美だけだった。由美は子供の急病で帰ることになり、秀樹も土産の買物でけんかになって帰ってしまった。残った女3人で飲んでいると、爆発が起こった。
 「スターバト・マーテル」は二度、三度と意外な展開をするが、最後はサスペンス風であっけなかった。

鏡の背面 2021年10月2日(土)
 薬物やDVDに苦しむ女性たちが暮らす「新アグネス寮」が落雷で火災に遭い、取り残された若い女性と幼児を救おうとした「先生」と元看護士の盲目の老女が犠牲になった。後日、警察の捜査により、聖母のごとく慕われた小野尚子の遺体は、かつて連続殺人事件の容疑者としてマークされていた女だということが分かった。小野尚子を取材したことのあるフリーライターの山崎千佳は、寮の代表中富優紀に相談されて、その女半田明美の正体を追う。そして半田明美を調べて記事を書いたことのある元雑誌記者長島の協力を得て、入れ替わりのあった可能性のあるフィリピンへ行く。
 小野尚子、半田明美、そして寮に住む女性たちも悲惨な人生を生きてきた。そして驚愕に値する真相が明らかになる。吉川英治文学賞受賞作。 重かった。