清水義範

青春小説 国語入試問題必勝法    

青春小説 2003年10月21日(火)
 作者の名前からすると、歴史小説か企業小説でも書いているような印象で今まで読んだことがなかったのだが、実は軽い作風の作家なのだった。
 「三億円の郷愁」では、がけ崩れがきっかけで昭和43年へタイムスリップした登場人物が、生活のためにまずダービーで万馬券をとり、次にこの年起こった大事件、三億円事件の金を横取りすることを考える。どうなるんだろうと、早くページをめくりたくなるおもしろさだった。タイムパラドックスを扱うSFとしてもおもしろい。
 「灰色のノートからT・U」は、作家になりたくて名古屋から東京へ出てくる大学生の情けない青春記。半分は作者の自伝である。
 3作品とも、作者の青春時代を描いており、自分からするとだいたい高校生ぐらいの時代で、懐かしかった。

国語入試問題必勝法 2004年2月25日(水)
 「猿蟹合戦とは何か」は、太宰治がなぜ「お伽草紙」に猿蟹合戦を書かなかったのかという疑問から、この物語をフロイト的に分析してみせる。「国語入試問題必勝法」は、国語の苦手な高校生が家庭教師から国語の必勝法を教わる話。合格した生徒がお礼に書く手紙がまたいい。「靄の中の終章」は、老人がボケていく様子を老人の語りを通して描いている。「いわゆるひとつ のトータル的な長嶋節」は、例のあの語りが感覚的なものではなく、天才にしか知りえない真実を論理的に説明しようとする努力の結果なのだと喝破し、その発想法でいろいろな例に長嶋節で解説を試みる。「人間の風景」は、老人会の老人たち4人がリレーで小説を書こうとするもの。
 パステイーシュというらしいが、いかにもそれ風にまねて書いてみせるという作品で、おもしろいし、うまい、頭いいと思うのだが、それ以外何も残らないような気がするのももったいない。