志水辰夫

背いて故郷      

背いて故郷 2008年3月28日( 金)
 水産監視船の船長をしていた柏木は、船が実は原潜の情報収集を行うのが任務だと知り、親友の成瀬に職を譲ってインドネシアで仕事をしていた。正月の休みで帰国した柏木は、成瀬の故郷鶴岡を訪れて彼の墓参りをしていた。港に停泊している船の中で殺されていたのだという。成瀬の死に責任を感じた柏木は、成瀬の妻優子やかつての部下を訪ねて真相を探ろうとする。そして、成瀬が何かの写真を撮っていたこと、そして部下の一人が偽物だったことを知る。そして、その部下と接触を図ろうとしていた時、何者かに襲われる。
 最近、本屋で「行きずりの街」が山積みになっている作者の、日本推理作家協会賞受賞作。アクション小説という感じだが、最後には意外な結末も待っている。成瀬の妻優子や妹早紀子との関係も、ストーリーに幅を持たせている。しかし、たどり着いた謎はそれだけのことかとも感じるし、目的のフィルムの在りかがわかった段階で人に任せればすむことで、殺しあうこともないのにと思ってしまう。ハードボイルドなればこそだが、瀕死に近いような暴行を受けて、何人ものプロを相手に立ち回るというのは、いつもながらリアリティが感じられないし、主人公も作者の文章もかっこつけすぎ。それでも、よくできていておもしろかった。