清水博子 |
街の座標 | 処方箋 |
街の座標 2003年12月4日(木) |
「街の座標」というのは、小田急線をY軸、井の頭線をX軸にとった下北沢の街の表し方。大学に入り下北沢に住むようになった文学部の女子学生は、この街を描いた作品を
読んで、その女性作家を
卒論のテーマに選ぶ。しかし、ワープロに作品を入力し、下北沢の街を徘徊するうちに、まったく書けなくなってしまう。レポートの代筆を頼んだ柳という学生がこの作家と知り合い、実は近所に住んでいるということを知らされ、その様子を聞くにつれ、「小説家が<S区S街>を書いた街、小説に書かれた<S区S街>、自分の居住区である世田谷区の下北沢、この位相の異なる三つの点が混乱をきたして、あろうことか重なり合ってしまった。」 歯医者の衛生士や酒場の店番の女の子への妙な執着、柳との関係、小説家の恋人と思われる中年の美容師。作品に描かれた街と自分が住んでいる街が重なり合った空間で、ちょっと妙な人間関係も展開される。幻想文学というほどではないが、変な感覚を引き起こす作品だ。 |
処方箋 2005年3月3日(木) |
国立病院の事務職員である沖村は、学生時代の友人片山から、留学期間中、毎週土曜日姉を病院に付き添ってほしいと頼まれる。脳患いなのだそうだ。呼びかけるときは「おねえさん」だけにしてほしいという。こうして同じ沿線の「おねえさん」の家に迎えに行き、電車で病院へ連れて行き、家へ送り返すという土曜日の勤めが始まる。この話を「彼女」に言うと、いろいろ難癖をつけ、しまいには一緒に病院へ付き添って行く。そうするうち、今度は「彼女」のほうがおかしくなって行く。 女性作家には、難解とか幻想的とかとも違う、極端に癖の強い作家が多いが、この人はその最右翼だろう。3ページ半にも及ぶ精神薬の羅列とか、こんな言葉あるんだろうかというような言い回し。ストーリー自体も風変わりだが、それ以上に言語が独自の世界を作っている。 野間文芸新人賞受賞作。 |