柴田哲孝

TENGU(てんぐ)      

TENGU(てんぐ) 2008年10月13日(月)
 中央通信の記者道平慶一は、二十六年ぶりに沼田市を訪れ、昔よく通った華車という店で、元沼田署の鑑識大貫俊一と再会した。癌で余命のない大貫は、あの事件を洗い直したいといった。鹿又村という寒村で、頭をつぶされ骨を折られて一家三人が惨殺され、その後も村人が犠牲になっていった事件だった。背後に米軍の影が見え、上層部によって未解決のまま握りつぶされていた。当時若手記者だった道平は、取材で大貫の世話になっていた。村には彩恵子という盲目の美しい未亡人がいて、次第に道平は彼女に惹かれていった。村人は天狗の仕業だといい、天狗を目撃した老婆もいた。そして、ワシントンポストの記者と名乗るアメリカ人3人も一地方の事件にすぎないのに、長く滞在していた。
 犯人、天狗の正体は何なのか、アメリカ軍がどう関係しているのか、彩恵子は何か関係しているのか、多くの謎があり、ロマンスやアウトドア趣味も出てきておもしろかった。ただ、オカルトかバイオかと思って読んでいくと、結末はそんなことかという感じもある。大藪春彦賞受賞作。