新章文子

沈黙の家      

沈黙の家 2020年6月1日( 月)
 保科あゆみと新太郎の姉弟は、乾物問屋を営む両親が殺害され、京都から東京へ出てきた。あゆみは少女小説家として、新太郎はその紹介で出版社の編集として身を立てて行く予定だった。新太郎は男色家で、先生だった坂崎から逃れるという意味もあった。二人が借りた麹町の高級アパートの隣の向井津矢子の部屋には、作家の船原宇吉が同棲していた。船原は津矢子の妹樹里子とも付き合っていて、樹里子は船原の子を妊娠していた。新太郎は、あゆみと同じ少女小説家の徳田牧子に付き合わされるようになっていた。あゆみは頻繁に連絡してくる坂崎が自分に気があると思い、新太郎には樹里子と結婚しろとけしかける。新太郎は、樹里子と結婚したら金持ちになって、坂崎からも逃れられると思うようになる。そして事件が起こった。
 アッと驚く展開。40年前の作品だが、まるでタランティーノの世界だ。そして、登場人物の誰もが悪人か気持ち悪い人物。「犯人」だけがきれいな心の持ち主だった。他に、「こわい女」、「盗作の周辺」、「落ちていた手紙」を収録。帯に「元祖イヤミス」とあった。著者は宝塚歌劇団出身で、同期は淡島千景。デビュー作の「危険な関係」は江戸川乱歩賞を受賞し、直木賞候補になった。