関口尚

プリズムの夏 空をつかむまで    

プリズムの夏 2005年9月4日(日)
 高校3年生のぼくは、親友で映画マニアの今井と水戸市内の映画館へ行き、切符売場で働いている美しい女性松下菜奈さんに出会う。二人とも密かに憧れを抱いて、それから何度かその映画館へ通う。そんなある日、今井が女性の映画感想のサイトを見つけ、そこには「やめていく日記」という日記があり、昔から自傷癖があり、愛する人に裏切られて鬱病になっている女性の思いが綴られていた。更新される日記を読んでいくうち、別の映画館で松下さんを見かけ、過呼吸症になったところを助けたことが書かれていた。日記の女性は松下さんではないのか・・・。次第に死へ向かっていくような日記に、何とか救わなければと思いが募っていく。
 どこがどうとは言えないが、ストーリーがいまいち練れていないような、文章に魅力を感じない物足りなさが残ったが、おもしろいことはおもしろかった。小説すばる新人賞受賞作。

空をつかむまで 2009年10月13日( 火)
 優太は、小学校の時サッカーでは知られた存在だったが、中学校に進んでからなぜかへたくそになった。あせって練習するうち膝を痛めてしまい、サッカー部をやめて、まだ膝が悪いふりをしてきた。その後入った将棋部の顧問ウガジンに無理やり水泳部に連れ出される。部員は、優太ともう一人の将棋部員でカナヅチのモー次郎(幸次郎)と、ただ一人の正式部員で県中学記録を持っている姫(暁人)の3人だけ。ウガジンと言い争ってクビになった姫が、なぜか復部を願うようになり、その条件として、3人でトライアスロン大会に出ることになった。美里村が海王市などと合併して新しい市となる記念の大会で、なくなってしまう美里中の名を残すため優勝しろということだった。姫は優太の幼なじみの美月とつき合っている。そして、モー次郎は小学生の時姫にいじめられていたのだという。そんな3人が合宿してトレーニングを始めると、謎の老人鶴ジイが現れてコーチを始める。
 大会に向けて3人に友情が芽生えてきて、これまで逃げてきた優太も自分を取り戻していく。たわいない青春ドラマだが、さわやかで楽しかった。坪田譲治文学賞受賞作。
 「大切なのはイメージだ。もっと高くジャンプして、青い空に手を伸ばすようにして、歪んだ大人たちがつかめなかった生きるってことの楽しさを、僕らの世代が手にするのだ。」