佐藤多佳子

サマータイム 黄色い目の魚 一瞬の風になれ 明るい夜に出かけて

サマータイム 2003年11月27日 (木)
 小学5年生の進はプールで二つ年上の広一と知り合う。広一は事故で左腕を失い、習っていたピアノをあきらめ、ジャズピアニストの母と二人で暮らしている。佳奈は進の一つ年上の姉。進は素直だがどこか存在感が薄い。佳奈は魅力的だが少しわがまま。広一は大人びているが、母親の恋人に対してはひねている。この三人が出会い、影響し合い、感情を交換し、別れ、そしてまた出会う数年間を、三人それぞれを主人公とした連作短編で織り上げている。
 「八月の太陽のように、明るい強いまなざしがまっすぐにぼくを見る。・・・何かがつながった!あの遠い日から今までの、すべての夏がピアノの音で数珠つなぎになった・・・」サマータイムというのは、広一の母親がよく弾くジャズのスタンダードナンバーのことだ。
 江國香織と同じように、小学生、中学生、高校生の言葉そのままの文体なので、読んでいると少し物足りない気もする。月刊MOE童話大賞受賞作。

黄色い目の魚 2008年4月27日(日)
 木島悟は、赤ん坊のとき別れたきりの父親、テッセイに会う。テッセイのアパートは油絵ばかりだった。人の顔の落書きを書いている悟は、テッセイからデッサンを教わる。テッセイはその次の年、肝臓の病気で死んでしまった。村田みのりは、家族にイヤがられ、中学校ではムカついてばかりで、母の弟でマンガ家兼イラストレーターの通ちゃんのアトリエでいつも過ごしていた。クラスでいじめられている美和子をかばううち、なつかれてしまった。HRで問題になり、みのりは友達なんかじゃないと言ってしまった。おじいちゃんの家に越してきた木島とみのりは、高校で同じクラスになった。友達の落書きを書いている木島に、みのりは「なんで、人のヤなと としか見えないの?」と言ってしまう。美術の時間に木島はみのりを描くことになったが、ぜんぜん描けなかった。木島は、みのりの中の目に見えない何かもとめて姿を見続ける。みのりは、木島が絵を描く様子を見ていて自分の中の絵が好きという気持ちに気づく。
 キライなことばかりで周囲を拒絶するみのりと、サッカーにしろ絵にしろマジになれない木島。その二人が絵を通して近づいていく。そして、絵に向かう気持ちが、それぞれ少しずつ相手のほうへ向かっていく。 「黄色い目の魚」というのは、みのりが小学生のころ描いた目の尖った魚。ほんの少し屈折した青春。みのりと通ちゃん、木島とテッセイの屈折した関係の他に、木島が通うカフェの似鳥ちゃんと通の関係、妹の玲美の家出、木島のサッカーとサイドストーリーが多すぎて、意味ありげで曖昧なままに終わっているところもあって、中途半端な感じもする。
 「私の心からキライが減って、好きが増えてきた。それはすごいことだ。ずっと望んでいて、なかなかかないそうもなかったことだ。木島一人を好きになっただけで、明るい濃い色が染みていくようにじわじわと好きが増えていく。世界が広がっていく。」

一瞬の風になれ 2010年2月14日(日)
 神谷新二と一ノ瀬連は幼なじみ。連は、中学の全国大会で100mの決勝に残った天才ランナーだが、陸上をやめていた。。新二の兄健一はサッカーの強豪校でインターハイ準優勝していて、家族はサッカー狂一家だ。新二もクラブでFWをしていたが、高校はサッカーとは関係ない地元の公立校を選んだ。そこで家の都合で戻ってきた連と一緒になり、二人で陸上部に入部することになる。
 新二は、健一と連、二人の天才の背中を追うようにトレーニングに励む。朝連に合宿。地区大会、県大会、関東大会からインターハイへ。100mのタイムの目標、、リレーへのこだわり。先生の過去、先輩への思い、後輩との軋轢、他校のライバルとの闘い。そして女子部員への恋愛感情。何も知らないがむしゃらな1年生、実力をつけてきた2年生、部長を任された最後の3年生。盛りだくさんで、これ一冊読んだだけで部活を体験したような気分になれた。サッカー出身のがむしゃらランナーと天才ランナーという設定は、川島誠の「800」と同じではあるが、こちらは優等生版という感じか。吉川英治文学新人賞、本屋大賞受賞作。

明るい夜に出かけて 2019年11月30日(土)
 富山は大学を休学して、都内の実家を出て金沢八景でコンビニの深夜勤務をしている。ある夜、小柄な変な格好をした女の子が店に現れるが、その子のリュックに富沢が聴いている深夜放送の番組の、最高の投稿ネタに送られる缶バッチが2個もついていた。富沢もその番組、「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」のリスナーで、投稿する「職人」だった。その女子高生の佐古田、店の先輩でユーチューブで歌を歌っている鹿沢、高校時代からの友人で今住んでいる部屋を紹介してくれた永川の4人が付き合うようになる。富田は接触恐怖症で、そのことである出来事があって心に傷を負っていた。
 いい内容だとは思うが、個人的にはお笑い芸人 が好きじゃないし、ラジオも伊集院やナイツに替わってからおもしろくなって聴かないので、あまり興味が持てなかった。山本周五郎賞受賞作。