佐藤正午

ジャンプ 月の満ち欠け    

ジャンプ 2004年5月30日(日)
 知り合って半年のガールフレンドになじみの店に連れて行かれ、酒は飲めないのにアブジンスキーという強烈なカクテルを飲んでしまう。彼女のアパートにたどり着くと、リンゴを買い忘れたといって彼女は買物に戻り、酔ってしまった男はそのまま寝込んでしまう。朝目覚めると、彼女が帰った気配はなく、男はそのまま出張に出てしまう。その後連絡が取れなくなり、出張から戻って彼女の部屋を訪れると、やはり心配した彼女の姉と鉢合わせしてしまう。一緒に行方探しを始めると、偶然の連鎖ですぐには戻れなくなったという事情がわかる。
 そこから先は突き止められなくなるが、1ヶ月後、さらに半年後と彼女の行方の手がかりをつかむが先には進まない。
 5年後偶然彼女と再会して失踪の謎は明らかになるのだが、この男、実は自分自身が秘密を持っていて、「一杯のカクテルがときには人の運命を変えることもある」などとクールに回想するものの、実はすべてのはじまりは自分自身だということに最後まで思い至ることがない。読んでいるうちに、人生そんなものかと思 えてくる。ある時からふと会わなくなって、それっきりどこでどうしているかわからない人間ばかりだから。

月の満ち欠け 2019年12月14日( 土)
 小山内堅は、八戸の高校から東京の私大に進み、就職し、大学のサークルで知り合った高校の後輩の梢と結婚し、娘瑠璃が生まれた。瑠璃が七歳のとき熱を出し、その後妙に大人びて、家でをするようになった。高校を卒業するまでおとなしくするよう言い聞かせたが、十八歳になって梢と一緒に車で外出中に事故で亡くなった。十五年たち、小山内は実家に帰り、荒谷清美とみずきの親子と親しくなっていた。そのみずきが連れてきたのは三角哲彦という、梢の親友の弟で、やはり同窓の後輩にあたる男で、三角が語ったの不思議な物語だった。学生の時瑠璃という年上の人妻と愛し合うようになったが、駅でホームから転落して亡くなった。亡くなる前、彼女は月の満ち欠けのように生と死をくり返し、哲彦の前に現れる、瑠璃も玻璃も照らせば光る、と言っていた。時は過ぎ、小山内は東京駅でるりと名乗る少女とその母親と会っていた。
 生まれ変わりを扱った小説は他にもいろいろあるが、ミステリー的な要素もあっておもしろかった。直木賞受賞作。