佐々木丸美

雪の断章 忘れな草 崖の館  

雪の断章 2003年10月13日(月)
 10年近く前に買って、そのまま本棚で眠っていた本だ。一応推理小説ということになっていて、殺人事件が起こって、主人公が犯人を推理して、そのことによって悩むのだが、ミステリーの部分は全体の10分の1にも満たない。この小説は、少女小説と呼んだほうがいいかもしれない。
 孤児の飛鳥は、小学1年生で養女になった先の家でお手伝いとして虐待され、家出した公園で以前迷子になった時助けてくれた青年と再会して、彼のアパートで育てられることになる。この小説は、少女飛鳥が、彼女を養うことになる青年祐也、その友人史郎やアパートの人々に見守られながら成長していく物語だ。屈折した少女の心を描写する言葉は、声に出して読むことも聞くことも恥ずかしくなるような少女マンガ的な表現だ。斉藤由貴主演で映画化されているそうだが、記憶にはない。
 社会人になったばかりの青年に、どうして家政婦さんがついているのか、どうして孤児を育てて高校、大学まで入れてやれるのか、どうしてこの青年がいつも思いつめたような表情を見せるのか、後半明らかになる登場人物が関係する会社と主人公の関係とは何なのか、少し謎も残る。それにしても、少女マンガ的な世界、学生の頃からけっこう好きなのだ。

忘れな草 2009年5月20日(水)
 養女として育てられてきた葵と弥生。美しく愛された弥生に対して、泣き虫で虐げられた葵。十三歳のある日、紳士が訪ねてきて、ある会社の継承権を持っている女の子を探してきた、葵がその子だという。しかし、おばさんの策略で弥生が引き取られていった。ある日、葵にも迎が来て大きな邸に着くと、そこには弥生がいた。どちらかが会社の継承者、その会社の高杉という青年の監視下で二人は暮らすことになった。ふたりとも小さい頃、お兄ちゃんと呼んで慕った少年の思い出を持っていた。高杉はその少年なのか。企業の陰謀の中で、葵と弥生は高杉に恋心を抱いていく。
 企業の権力争いや、そこに関係した人間の子供が権力のカギを握っているとか、いまいち説得力がないし、読み終えても事実関係がよくわからないし、どういう結論になったのかもわからない。それと、主人公葵の性格が悪過ぎて、不快感を禁じ得ない。しかし、よくもこれだけずらずらと言葉を奔流のごとく書き連ねられるものだ。さすがにうんざり。

崖の館 2007年3月8日(木)
 資産家のおばさんが建てた断崖に立つ白い館を、冬休みにいつものように5人のいとこが訪れた。一番年長の二十九歳のサラリーマンの研さん、父子でスーパーを経営している真一さん、勤めをやめて独身貴族の二十七歳の棹子さん、大学生の由莉、浪人中の哲文、そして高校生の私涼子。この館では二年前、同じいとこ同士でおばさんの養子になった千波が崖から転落して二十歳で死んでいた。研さんは千波の婚約者で、読書と絵画鑑賞で膨大な教養と知識を身につけた千波は、みんなの尊敬と憧れの的だった。
 しかし、着いたその日、絵の部屋から1枚の絵がなくなり、行方を捜すうち、棹子が行方不明になりあかずの間の千波の部屋で見つかるという事件が起こる。それをきっかけに、それぞれが千波の事件を推理するようになるが、研さんが崖の非常階段から落ちて怪我を負い、電話線が切断され、いとこ同士で疑い出す中で、とうとう由莉が亡くなった。謎解きの鍵は、涼子が偶然見つけた千波の日記にあった。哲文への恋の芽生えと疑惑の中、涼子は真相にたどり着く。
 いわゆる「雪の山荘」ミステリー。そして、佐々木丸美節炸裂。千波や哲文が繰り広げる芸術論、人生論、こっぱずかしくなるような涼子の心理描写。しかし、そこにこそ真犯人の動機があった。作者自身の意志で廃刊され、作者の死後二年経て復刊された作品。