桜木紫乃

ラブレス ホテルローヤル    

ラブレス 2014年1月31日(金)
 釧路で市役所に勤める清水小夜子は45歳、同い年で幼い頃から一緒に育ってきた従妹で札幌に住む理恵から、母の杉山百合江と連絡をとれないので見に行ってほしいと頼まれた。家を知っている母の里実と一緒に訪ねると、老人がドアを開け、百合江は位牌を握りしめて布団に横たわっていた。
 百合江は、道東の開拓地標茶町で飲んだくれの父卯一、文盲の母ハギ、3人の弟と一緒に暮らしていたが、夕張で旅館を経営している卯一の妹に預けられていた妹の里実が戻り、入れ替わりに中学を卒業した百合江は町の薬局に住み込みで働き始めるが、お祭りの夜町民会館で見物した歌芝居に魅入られ、旅芸人の一座とともに町を出たのだった。
 開拓地の凄惨な生活、旅芸人の流転、夫婦、姉妹、親子の確執、実らない愛と妊娠と、いろんな要素があって、時代や経済の変化をうまく取り込んでいて、作品の長さ以上にスケールの大きい作品。ミステリー的なところもあって、ちゃんと伏線が張ってある。開拓地の生活というと乃南アサの「地のはてから」、旅芸人の世界というと坂東眞砂子の「山妣」や皆川博子の「恋紅」などがあるが、いずれも力作。同じようにおもしろかった。島清恋愛文学賞受賞作。

ホテルローヤル 2015年7月5日(日)
 北海道釧路湿原のホテルローヤルをめぐる連作短編集で、時間を逆にたどっている。「シャッターチャンス」は廃墟となったホテルでヌード撮影するカップル、「本日閉店」は寺への寄付の代償に檀家の老人に体を売る住職の妻が廃業したホテルローヤルの創業者の死に際の言葉を聞く話、「えっち屋」は母が家を出、父も顔を出さなくなり、高校卒業後一人でホテルを経営してきた娘が、カップルの心中以来経営不振に陥ったホテルを閉じる話、「バブルバス」は苦しい生活の中、住職の手違いで中止になった一周忌の費用でホテルローヤルに入った中年夫婦、「せんせぇ」は妻の不倫で家に帰れない高校教師と両親が家を出て暮らせなくなったその女子生徒の道行き、一見関係ないがこれが実は心中カップルになる。「星を見ていた」はホテルで働くパートの老女のどん底生活、最後の「ギフト」は看板屋が愛人のためにホテルローヤルを建てるまでが描かれている。
 話題になった直木賞受賞作だが、最初の2つと最後は全くつまらないし、中間のどん底感がおもしろいかなという程度。 「ラブレス」で落としたから受賞させたのだろうか。