桜庭一樹

少女には向かない職業 砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 私の男 赤朽葉家の伝説

少女には向かない職業 2008年2月12日(火)
 大西葵十三歳は、学校ではお調子者として過ごしているが、友達と一緒にいても、時に熊に襲われて洞穴に隠れる原始人のように気配を殺していることもある。家には足を怪我してから働かず、酒ばかり飲んでいる義父がいる。夏休み、葵は同じクラスの目立たない図書委員宮乃下静香と親しくなる。義父が自分の財布からお金を抜いて酒を買っていることを知り、ゲームの磁気カードを壊されて憎しみをつのらせた葵に、静香が「ぜったい見つからない人の殺し方、教えてあげようか」とつぶやいた。
 日本推理作家協会賞、直木賞と相次いで受賞した注目の作家、ライトノベル出身の作者が初めて書いた一般小説(?)だそうだ。少女の完全犯罪計画は、実際は穴だらけなのだが、ミステリーとホラーと少女小説を合わせたような魅力があっておもしろかった。軽さとノワールな感じに、どこか乙一と共通する雰囲気がある。

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 2009年12月16日(水)
 山田なぎさは、日本海の小さな港町の中二の少女。漁師の父が嵐で亡くなり、母が働き兄はひきこもり。なぎさは“実弾”にならないものには関わらないことにしている。なぎさのクラスに海野藻屑という転校生がやってきた。郷土出身の有名人の娘で美少女だが、あまりに変わり者のため皆ひいていった。 兄に言わせると、砂糖菓子の弾丸を撃ちまくってるのだそうだ。その藻屑がなぜかなぎさに絡んできて、次第に友達のようになっていく。なぎさは、藻屑の太腿に殴打の痕があるのを見てしまった。
 最初に藻屑のバラバラ遺体が発見されたという記事が載っているので、結末は見えている。ミステリーではないし、虐待をテーマにしているわけでもない。少女二人の 感情の絡み合いのちょっとせつない物語 。ただ、あまりにあっけないので、もう少しエピソードが欲しかった。そういえば、「少女には向かない職業」も主人公は十三歳。家庭に事情があって、しっかりしているがどこか偏りがある。

私の男 2010年5月9日(日)
 竹中花は、九歳の時奥尻島の震災で両親と兄妹をなくし、遠縁のまだ二十五歳の腐野淳悟の養子になり、海上保安官である淳悟とオホーツク海の紋別市で暮らしてきた。東京へ出て二十四歳になった花は、明日結婚しようとしている。だが、花と淳悟は性的関係を持っていて、過去に犯した罪を共有しているらしい。結婚はここから逃れ淳悟から離れる機会だったが、ほんとに離れるはずがない、いまだって一緒に逃げ続けているのだった。そして、物語は語り手を変えて過去へさかのぼっていく。
 過去へ向かうにつれて、ミステリー的にいえば、少しずつ謎が明らかになってくるが、その核心は人を殺した罪というよりは、二人の関係の原点にあるだろう。「お…」という言葉は衝撃的かもしれない。
 話題になった直木賞受賞作。

赤朽葉家の伝説 2010年10月17日(日)
 鳥取県紅緑村、山の麓を切り崩してだんだんになったいちばん上にたたら製鉄で栄えてきた赤朽葉家の大屋敷があり、その下に製鉄所で働く人たちの宿舎があった。万葉は、山奥に隠れ住む"辺境の人”によって村においていかれ、製鉄所に働く若い夫婦に引き取られた。万葉は文字や計算は覚えられなかったが、不思議なものを見る能力があり、それは未来を予知するものだった。赤朽葉家の大奥様タツのお告げで万葉は赤朽葉家へ嫁ぎ、千里眼奥様と呼ばれるようになる。万葉の二番目の子毛毬は子供の時から血気盛んで、中学で〈製鉄天使〉という暴走族のリーダーになり、中国地方を制覇する。グループのマスコットだった蝶子が亡くなると腑抜けのようになるが、なぜか漫画を描き始め、一躍売れっ子となった。そして、毛毬が家のために婿をとって生んだ子供、私瞳子は何も語るべきことはない。しかし、祖母万葉が亡くなる前に言った「わしはむかし、人を一人、殺したんよ。」という言葉に、万葉から聞いた話を手がかりに誰を殺したのか考え始める。
 推理小説というよりは、山陰地方の旧家の女たちの物語という感じで、時代ごと、世代ごとに当時の社会、風俗、出来事を絡めているのがうまいし、おもしろい。他の登場人物たちも皆変わり者だし、万葉や毛毬のエピソードは、できのいい「法螺話」。謎の解決は、万葉が予知した中で最後まで語られなかったことが関連している。しかし、最大の謎は、万葉がなぜおいていかれたのかということかもしれない。日本推理作家協会賞受賞作。