阪田寛夫

うるわしきあさも      

うるわしきあさも 2007年8月14日(水)
 「サッちゃん」、「おなかのへるうた」などの童謡の作詞で有名で、「土の器」で芥川賞も受賞している作家だが、本がなかなか入手できなくて、これまで読んだことはなかった。
 家族や親類のことを書いている作品が多く、文体もエッセイ風なので、小説という感じはあまりしない。「音楽入門」ではキリスト教徒で音楽好きで、聖歌隊を指導していた父を、「うるわしきあさも」では作曲家の叔父(大中寅二)を取り上げている。また、「海道東征」は作曲家の従兄(大中恩)が師事した作曲家信時潔を取り上げた川端康成文学賞受賞作だ。「冬の櫛」は友人夫婦を取り上げた作品で、これは創作かエッセイかわからないが、どこか保坂和志に通じる雰囲気があっておもしろい。「平城山」と「日本の童謡」は放送局勤務のころの経験を生かした作品のようだが、かなりシニカルというかブラックな内容だ。独身で病を抱えた女先生を描いた「陽なたきのこ」は、読み方によってはかなり残酷だし、小学生の恋心を描いた「歌の作りかた」も、おもしろいがかなりきつい教訓を与えている。
 結局、現代の読者からのニーズがないのだろう。