西條奈加

まるまるの毬      

まるまるの毬 2017年12月17日(日)
 麹町の裏通りのささやかな菓子店南星屋、主の治兵衛、娘のお永、孫娘のお君の三人で切り盛りし、諸国の珍しい菓子を手頃な値で出しているので、いつも売り切れで繁盛していた。治兵衛は、実は旗本岡本家の次男で、武家の身分を捨てて菓子職人に弟子入りし、諸国を巡ってその土地の菓子屋で働くという暮らしを十六年続けて江戸に戻り店を出した。ある日、奉行所に連れて行かれ、調べを受けた。店で出した印籠カステラが、平戸藩秘伝の「カスドース」という菓子の製法を盗み出したものだという訴えを受けたのだった…。
 家族を巡るトラブルに菓子が絡んで、菓子作りで解決していくという趣向の連作短編集。治兵衛の弟も出家して名刹の住職を務めている。そして、治兵衛にはさらに重大な出生の秘密がった…。吉川英治文学新人上を受賞した人情時代小説。「毬」は「まり」ではなく「いが」と読むのが一つのみそ。まあ、おもしろかった。