リービ英雄

星条旗の聞こえない部屋 千々にくだけて  

星条旗の聞こえない部屋 2005年6月24日(金)
 横浜にあるアメリカ領事館の領事の子、17歳のベン・アイザックは、11月のある夜3千円のお金と身分証明書を持って家出し、電車に乗って父に立ち寄るなと言われていた「新宿」を目指す。1960年代、街では安保闘争が繰り広げられ、反米意識がむき出しだったり、日本語を話すアメリカ人が奇異に映り、なかなか受け入れられない。かまってくるのは英語サークルの学生だけ。
 表題作のほかに「ノベンバー」、「仲間」と3部作になっていて、早稲田で日本語を学び一人の学生と知り合い、家出して部屋で世話になり、一人新宿の街を彷徨い、深夜喫茶で働き出す過程が、シックな文体で描かれている。アメリカ人、ユダヤ人としてのアイデンティティの喪失感。父との葛藤、母との惨めな暮らし。入っていこうとする日本(新宿)の冷たい壁。
 生粋のアメリカ人が日本語で書いた自伝的小説で、野間文芸新人賞受賞作。

千々にくだけて 2008年9月26日(金)
 翻訳家となって東京に定住したエドワードは、母と妹に会いに、途中でたばこを吸うためバンクーバー経由でアメリカへ向かっていた。窓の中に現れる小島を見て、エドワードは「島々や、千々にくだけて、夏の海」という芭蕉の句を思い浮かべる。エア・カナダ機が着陸すると、機長が「アメリカ合衆国はテロ攻撃の被害者となった」と言った。国境が閉鎖され、バンクーバーのホテルに入ったエドワードがテレビをつけると、百十階の窓からOLが飛び下りていた。
 日本に長く住んでいるアメリカ人が9.11同時テロに遭遇し、愛国的な反応を英語から日本語に言い換えながら感じた違和感を描いた作品。「コネチカット・アベニュー」はその後日譚。「9・11ノート」は事実を記したもの。大佛賞受賞作。
 「国民のうた」は、この3作以前の作品だが、故郷に残した母との反目に共感できるものがあった。