連城三紀彦

戻り川心中      

戻り川心中 2006年2月21日(火)
 「藤の香」:大正時代の瀬戸内の港町にあった色街で、連続殺人事件が起こる。女を囲っていた裏長屋の奥の代書屋の男が容疑者として捕らえられるが、遺書を遺して獄中で自殺する。
 「桔梗の宿」:昭和の初期、下町の遊興町で殺人事件が起こる。被害者が立ち寄った場末の娼家を探ると、まだ十代の娘が何か言いたそうな様子が気になり、後日客を装って訪ねる。
 「桐の柩」:下町の木場の小さなやくざの組に拾われ、兄貴に命じられてある女を訪ねて預かった物を渡して女を抱き、女から別の物を預かって帰ると兄貴に抱かれるということが何度か続く。
 「白蓮の寺」:母が男に刃物を振るい血が飛び散るという幼い頃の記憶が頭から離れなかったが、亡くなった母が嫁いだ寺の檀家が訪ねてきたことで、その事情が明らかになってくるが、同時に矛盾もはっきりしてくる。
 「戻り川心中」:大正の歌人苑田岳葉は二度心中を図り、その都度情熱的な歌集を残し、二度目の心中の後喉を切って自害する。苑田の友人であるわたしは、その生涯を小説に表し、その足跡を追う。
 連城三紀彦というと以前「恋花」という本でうまいストーリーテラーだと思っていたが、実は推理小説作家だった。花を重要なモチーフとした作品集で、明治、大正、昭和の遊郭、やくざ、古寺、歌人の世界を取り上げているので、耽美的で退廃的な雰囲気の中での殺人事件がテーマとなる。ただし、犯人探しではなくて、関係者が事件の真相、隠された動機を想像するというものだ。そこに見えてくる殺人は、欲でも怨恨でもない、人の業の哀しさとでもいったものが後に残るだけだ。