大山尚利

チューイングボーン      

チューイングボーン 2008年5月17日(土)
 大学のゼミで一緒だったが、一度も口をきいたことがなかった嶋田里美から電話があった。会ってみると、決められた日付、時刻の電車の先頭に乗ってビデオを撮ってほしいということだった。渡された安達哲夫名義の通帳には、毎月三十万円ずつ振り込まれていた。原戸登は大学を卒業してから、十二時頃起きて新宿の居酒屋で働き、午前四時頃寝るという生活を続けていた。嶋田からの連絡は、昼働いている父の伝言で知ったのだった。その日、片瀬江の島から指定されたロマンスカーの展望室の最前列に座って撮影を始めて多摩川を越えた頃、警笛が鳴ってブレーキがかかり、線路上に人間がうずくまっているのが見えた。そして、二度目、三度目も同じように人身事故が起こった。終点の新宿に着くと、マクドナルドで待っている男にテープを入れた封筒を渡す。登はその男の後をつけて、さらに封筒を渡された女の後をつけて、封筒の郵送先土井清一という名前をつきとめた・・・。
 指定された電車に乗ると必ず人身事故が起こり、仕事を終えると三十万円振り込まれる。奇妙な仕事のミステリー的な部分は比較的わかりやすい。ただ、読み進めていくうちに、登という男が次第に異常に思えてくる。怖いのは事件ではなくて、人間なのだ。日 本ホラー小説大賞長編賞受賞作。おもしろかった。